≪連載・・・『謙虚さを自問する』A≫
〜☆Vo.5 『職務成績 or 人間関係?』??☆〜
〜現場の話題、落とし穴、失敗などに注目して考えるコラム〜
『職務成績の考え方』 前回から、ビジネスリーダーへ階段を登る中での大きな落とし穴といえる『謙虚さについての忘却』について、考えています。どんな名経営者も自分が気付かないうちに謙虚さを失いがちである、という事実があるという話です。
『あたりまえ?』
しかしながら、一方では何事も『あたりまえ』のことを『あたりまえに(確実に)』実行することが一番難しい、ということは皆さんも認識されているところでしょう。
トヨタの話と同様です。皆ジャストインタイムやQCサークルの仕組はわかっても、トヨタレベルでそれらを実行して成果をあげている企業は皆無ですよね。要は、1つの実行案をサポートする何百もの関連する戦術レベルの実行支援策が存在しているのです。トヨタであれば例外を作らずに管理職であっても社員であっても期間工であっても改善点を日々考えるだけでなく紙に落とし込んだり、その実行をチームのリーダーが支援をしたり、その改善策が実際に認められてこれまでのやり方から変わるように会社側も対応するなど(採用率9割以上)、細かい一貫性のとれた施策無しでは、中々上手く予定通りいかない、ということです。
例えば、この謙虚さのチェックも同様です。当然、謙虚な言動がとれているかどうかは、独りよがりの確認ではなく、周りが認める実行レベルでなければならないんですよね。
面白い記事がハーバードビジネスレビュー(6月号、ダイヤモンド社)に載っていました。それは、スタンフォードの教授によって書かれた記事で、健全な組織をつくるために『恥知らずはいらない』というルールを多くの企業が採用している、というものです。恥知らずとは謙虚さを失ったスタッフやリーダーということです。記事中では暴君、破壊的ナルシスト・・などといった意味と同義で使われています。
例えば『秘書や同僚に声を上げることは許されない』といった非常に細かな日々の行動レベルの話です。(実際は、企業が急成長する中でそのルールが『脇に追いやられつつある』ことも多い、といいます)
大学でも教授会で有名な研究者の採用に関して討議していた中である教授は『ノーベル賞を受賞したかどうかなどは問題ではありません我々の人間関係を台無しにするような、恥知らずはいりません』と反論したそうです。
もちろん行動科学的にもこれらの謙虚さを失った『恥知らず』は心理的虐待を行うものとして、以下のような定義をしています。『言語的ならびに非言語的な敵意を、物理的に接触することなく持続的に示す者』
何のこっっちゃ??
難しそうですが、何とかニュアンスは単語ベースでわかります。なんとなく行動や思考など当てはまる人がまわりにいるのではないでしょうか。おっと、危ない・・・ここでまわりの人をチェックさせると本論からそれてしまうところでした。
ここで重要なのが、まわりの人に謙虚さの重要性を説くのは良いですが、その前に冷静に『自分がその状態に陥っていないか』ということを常に確認することなんですよね。
もちろん誰が見ても暴君、とか、まるごと恥知らず、という人は少ないでしょう。 いや、むしろ気付くべきところは、自分の行動や言動の中で、知らず知らずのうちに謙虚さを失った『ミニ暴君』の芽が生えていることがあるんですよね。
『知らず知らずに現れるミニ暴君』 日頃上司に『お忙しいところ恐縮ですが、できましたらこのレポートをお手すきの際にでも確認していただけますか』など、舌をかみそうな位丁寧な言葉遣いを使い謙虚さの鏡のような人が、レストランに行ったときに、まるで家来に命令するように不機嫌そうに『コーヒー3つ!・・・・』とか、『これ早くできないのー・・』、などと豹変する時があります。
そういった光景をみると、つい心の中で『おいおい、コーヒー3ついただけますか、じゃないか?・・・』『いつもの口調だと、可能な範囲でもう少し早くしていただけるとありがたいのですが・・?ではないのか??』などと一人ツッコミを入れざるをえないのです。
日頃からぶっきらぼうで暴君な人が喫茶店でも暴君なのはまだわかります(別に暴君を貫け!といっているわけではありません。この世に許される暴君は存在しません。念のため)。しかし、よく知りもしない人に対して、その見かけや肩書きだけで言動や態度を(無意識のうちに)決める人が多いのも事実です。
そういえば、有名な企業の社長などにあっても、その違いは良くわかります。相手の年齢や立場を知って、どのような言動や態度を示すか、ということはその人の本物の人間の大きさを知る良いベンチマークになります。
たとえば、明らかに若い人間がくると横柄なものの言い方や態度になったり、打ち合わせのスケジュールを確認しようとしても2ヶ月は一杯だから、無理、などと、相手によって対応を変えるのは、その人の人間の大きさを知る上で非常に『わかりやすい』反応をしてくれるため、便利ではあります。
そういった人間に限って自分よりも大きな権力などに滅法弱く、すぐになびいてしまったり、2ヶ月はビッシリで予定がまるでないはずのスケジュールが次の瞬間『空白状態』になったりします。
謙虚でいる、ということは、おそらく『自分の価値判断の基準』がしっかりできていること、といえます。
つまり、先ほどの経営者の例でいえば、たとえ若い人がこようが、女性がこようが、障害者がこようが人間性を尊重しながら相手を知ろうとし、その上で権限や年齢、性別ではなく『中身』について公平に議論をしようとする姿勢を持っています。
当然、経験や能力は大抵の場合年輪を重ねた経営者のほうが高い部分が多いため、各論については多くの場合『アドバイス』的なスタンスになることもあります。ただそれと横柄な言葉遣い、態度といったこととは何の関係もありません。
スケジュールについても同様です。時間なんて皆ありませんよね。それは総理大臣でも大統領でも、社長でも、新入社員でも、学生でもみな時間なんて作らなければないんです。優れた経営者は、たとえ2ヶ月計画が埋まっていたとしてもそれはあくまで暫定版に過ぎません。
限られた時間の中で、どれがより重要で、どれが本当に自分自身力を入れて議論したいのか、といった価値判断の基準を持ち、たとえ若造がアポイントメントを申し出たとしても、本当に価値がありそうなものであれば時間を作ってくれます。
実際に、超多忙で忙しいはずの有名社長が2ヶ月後どころか、『面白そうだね、じゃ、今日の4時ごろどうだい』なんていって空けてくれたりするのです。
『自浄作用とリスク』 最後に、HBRの記事は面白い提案で締めくくっています。 それは、『恥知らず』を1人入れてみようということです。
血迷ったか?と思われても当然です。
しかし、行動科学の研究によれば恥知らずの人が1人いて、皆がその人が拒否されたり避けられたりするのを目の当たりにすることで、自然と反面教師として『そうなってはいけない』と学ぶ効果があるそうです。実際、恥知らずをヘッドハントしてきて、昇進までさせた会社の幹部のほとんどがこの教訓を学んでいるといいます。
でもこの提案も、トップが恥知らずの場合は有効ではありません。つまり効果は封印されてしまうということなんです。
それどころか、自己満足の不適切な価値判断基準の下、ハッスルしているのは自分だけで、どんどん現場は冷めていく・・・といった、どこの大組織でも目にする『ハッスル反比例の法則』に陥っていくことも多いのです。
本メルマガは大企業の幹部やベンチャーの社長、コンサルティングファームのパートナーといった方々が購読しています。
いわば、日頃危機感の少ない部下の動きにヤキモキし、『どう現場を動かすか、マネージするか』といった1つの視点でしか見れなくなっている当事者なんですよね。
だからこそ、もう一方の視点、つまり相手をいかに変えるかどうかのみではなく『自分をどう変えるべきか』という対極の視点もを常に意識し、自己改善すべきではないでしょうか。
あるカリスマ個人タクシードライバーがいるとある人から聞きました。
その人は抱えきれないくらいの顧客層を持っていますが肩書きではなく、大会社の社長であっても人間性に障害を持った人は唯一差別して顧客リストから外しているといいます。
その人はもちろん、学生であっても企業の幹部であっても、海外からの来賓であっても、決して態度や言動は変えず、常に相手の立場を考えたおもてなしを心がけた100%の対応をしているといいます。
早朝ゴルフの客がいれば、何もいわずサンドイッチとおにぎりを自宅をでる前に作ってきて、後部座席においておく。ご飯派かパン派かわからない場合でも対応できます。
これが受験のために早朝の飛行機に乗る学生でも一緒です。深夜接待を受けて帰宅予定の企業幹部がハイヤーの依頼で電話をかけると、「お弁当やお茶を一緒に買っていきましょうか」と一言ありますが、これが新入社員が会社の歓迎飲み会の帰りにハイヤーを呼んだ場合でも行動は変わりません。
『それは会社とは別の世界の話だから』といってしまったらおしまい』思考停止です。優れたリーダーは決して謙虚さを忘れず、一貫した行動をとることができます。
今一度、自分の行動や言動、そして思考パターンを洗い出して分析してみるのも決して遅くはありませんよね。
『謙虚さの重要性はわかっている』という人も要注意!
繰り返しますが、『あたりまえ』のことを『あたりまえ』に続けることが一番難しいのですから。
※次号につづく ☆Vo.6 『謙虚さVSプロフェッショナリズム』?☆ ≪連載“謙虚さを自問するB”≫
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〜現場の話題、落とし穴、失敗などに注目して考えるコラム目次〜 通勤大学MBAシリーズその他の執筆を行うグローバルタスクフォースの編集部によるコラムです。体系的な知識や理論の整理を目的とするGTFの書籍群に対し、より実務的で現場よりのトピックを提供します。 ※本コラムはメンバー向けのメールマガジンの中のコーナーを加筆修正したものです
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