≪連載・・・『謙虚さを自問する』B≫
〜☆Vo.6『謙虚さVSプロフェッショナリズム』?☆〜
〜現場の話題、落とし穴、失敗などに注目して考えるコラム〜
謙虚さを自問する!の連載(3回)の最後を締めたいと思います。
前の2回のコラムで、『偉大な経営者であっても、謙虚さは失いやすい』が、本物のリーダーは『謙虚さを失わない(努力をしている)』ということを考えてきました。
『バランスのとり方』 その後、あるコンサルタントからこのようなことを何気なく聞きました。『たしかに、謙虚さって重要で、難しいですよね。すぐに勘違いして天狗になってしまから。しかし、一方で、謙虚さだけで成果を出さないというのも良くないんですよね〜。(謙虚さと対極にある)揺ぎ無い自信を持ち、自分を奮い立たせることも重要だと思う。そのバランスが難しいですよね。』
まさにおっしゃるとおりです。バランスとメリハリ付けは常に難しいものです。上記の話は『謙虚』VS『プロフェッナリズム』とでもいえるでしょうか?
みなさん、どう思われます?
『最終的には謙虚さを持ってない人はダメ!そんなのいくら仕事ができても人間としてNG! ぜえーったい認めない!』とか、『プロは成果を出してこそプロじゃねーか!てやんでー。 成果を出せないくせに謙虚なひ弱な奴なんざ卑怯なだけだ! 男らしくない!(「男らしくない」の翻訳:『有言実行・コミットメントできない人間だ』という意味です。 特に男女の差別を意図しているわけではございません。念のため(苦笑))』
とか、とかく両極端な議論になりがちです。
しかし、謙虚であるべき場面と、プロフェッショナルであるべき場面はそれぞれ存在していて、関口宏の『どっちの料理ショー』のように、
「今のあなたの気分は『謙虚』と『プロ意識』のどっち??」
といった類の問題ではないのですね。しかし、実際のところ、これらのバランスを意識し続けることが最も難しいともいえるかも知れません。常に物事は表と裏がありますが、正しく思考するためのMECE(モレ・ダブリなし)のフレームワークと同様、バランスが重要ですよね。
たとえば、身近にMECEに考えるフレームワークの例では、質と量、長期的視点と短期的視点、外部環境と内部環境などがありますが、これらはすべてどちらか1方を検討する際、もう一方も検討しなければ評価ができないことを意味しています。
質が重要!といっても、1億円費やして1つ100万円の製品が5個しか作れないような事業は商売になりませんし、ビジョンが重要!といっても、今日これから伺う営業先へのトークが上手くできなければ話になりません。
同様に、外部環境が重要!といくら市場分析や競合調査をしても、そこから導いた「ベスト」な戦略を自社が実行して優位性もたらすだけの源泉といえる優れた資産や特徴的な能力がなければ単なる独りよがりの戦略に過ぎないのは至極当然といえます。
つまり、質を重視する、といったときは、最低限満たさなければならない量を確保しながら可能な限り質を追求することが求められますし、戦略が実行できるための無数の細かな施策に落とし込まれ、実際に一貫性のある行動が伴った前提でビジョンが存在しなければならないのは言うまでもありません。
『バランスの重要性を考える事例』 最近はやりの顧客ロイヤルティ(顧客維持の源泉といわれる)も、結局そのベースにあるのが、『費用対効果の再検討』ですよね。いわば、それまで顧客満足度至上主義といえる過剰(無謀)サービス戦争に、だれかが言ってはいけない禁句を口にしたのです。
●人物A『ちょっとちょっと・・闇雲に顧客満足をあげようとしても意味あるん?、逆に出費のほうが多くない?それってひょっとして前よりひどくない?っていうか・・・赤字じゃん。』
●人物B『・・・・(ガ−ン!)』
っと言ったかどうかは定かではありませんが、このような誰かのゼロベース に考えたつぶやきに似たツッコミによって、思考停止していた皆の目が覚めたのです。
昨日まで『全ての人に最高のサービスを』(略して「ソリューション」) と唱えていた多くの輩が、一瞬にして『コストを無視して満足度を上げちゃあいかんだろう。顧客は全て神様じゃない。自社が最高のサービスを提供したい(優先順位の高い人)がだれであるかまず決める必要があるんだ!。そしてその顧客にあった顧客満足度を挙げ、スイッチングコストを高め、また、人間的な絆を深める必要があるんだ。エッヘン。』(⇒学者の受け売り)
という『あたりまえ』のバランス感覚にゆり戻されたといえます。
『ビジョナリーカンパニーからのヒント』 優れた企業を選んで強みを分析した『エクセレントカンパニー』の掲載企業の多くが不振や撤退にいたっていた状況を考え、短期的でなく長期的に優れた企業18社を分析したコリンズ&ポラスの『ビジョナリーカンパニー(日経BP)』でも、『ANDの才能を重視しよう』(・・・AとBのどちらかではなく、両方できる第3のオプションを考える)など物事の2面性についてその重要性を説いています。
たとえば、今、企業再生や変革というキーワードが飛び交っていますが、 同書には以下のようなメッセージがあります。
●『基本理念は維持しながら進歩を促す』
つまり、ただ闇雲に変革し続けることが重要ではない。企業が成功し続ける ためには戦術こそかわりつづけても基本的価値観は決して変えてはいけない (決してブレてはいけない)
日常生活でいうと、TPOにあわせて、といったところでしょうか。おそらく、このあたりは思考停止した大企業のゾンビ軍団(社内失業者群)や、思い込みの激しい独りよがりリーダーの場合、自分のメガネのフレームの色や形は普通にTPOにあわせて変えることができても自己完結しない組織における仕事ではTPOなんて言葉は自分の辞書にはないのでしょう。バランス感覚が狂ってしまうことが多いようです。
前回までの話で、それまで名経営者でも、一〇年間名経営者と崇められ、成功ロードを突き抜けてくると、謙虚さとプロ意識のバランスが麻痺してくることも多い、という話をみてきました。
そして、そのような人が今のような不確実なビジネスの世界に直面すると数々の不確実要因(インターネットの出現や法規制の変化など、いわゆるPEST要因)によってビジネスの前提ががらりと変わったことに気がつかず、
○『過去の前提』 における、
○『自己の成功体験』に基づいた
○『根拠のない自信』に満ち溢れた結果、下された
○『誤った意思決定』によって
凋落してしまう、ということが起こってくるのですね。
冒頭の課題に話を戻してあらためて
『謙虚さ』VS『プロ意識』
を1つの見方で考えるこんなTPOがあるのでしょうか。
●改善のための下地・・・・⇒『謙虚さ』の追求
EQでいう自己の感情を正しく認識して(e.g.『失敗はしなかった、 ただ、認めるのは悔しいが、ああすればもっと成功しただろう』)
その上で、自己の感情を正しくコントロール(e.g.『もっと改善しよう』)
※謙虚といっても、いわゆる交渉術のようなスキルが必要な場面で馬鹿正直に謙虚に見せることを指しているのではなく、あくまで『自分自身の意思決定の軸を狂わせないための謙虚さ』を指しています。念のため。
●改善目標を達成する意志・行動⇒『プロ意識』の追求
常に自信を持ち、目標は必ず達成する。(このあたりはMBA同窓生であれば ほぼ通常出来ていますし、逆にタイムマネジメントを含め唯一自信を持てる ところでしょう)※ただマネジメント知識とあわせ、この部分は皆横一線で できているので差別化はできません。あしからず。
ここまでくると『プロ意識の中には最初から謙虚さは必須事項として入っているんではないか。いや入っていなければおかしい!!』という見方もあるでしょう。要は、謙虚さもプロ意識も相対するものではなく、両方追求しなければならないものだ、ということです。
『謙虚さ保持のためのセルフトレーニング』 この第二回の連載『謙虚さを自問する!』は今回で終わりますが、皆さんこのきっかけに是非自分に必要な謙虚さを再考してみてはいかがでしょうか。
たとえば謙虚さについての気付きを得るための方法の一つは、『成功しても反省し、改善のための策を考える』ということが挙げられます。
大抵ビジネスの解は一つでないといいます。正確にいえば正解の中でも素晴らしく良い意思決定と、そこそこの意志決定、リスクは少ないがまあまあ良い意思決定、考えうる正解の中でも最悪の意思決定などがあるということでしょう。
逆にいえば、そんな正解がたくさんあるなかで失敗なんて非常にレアケースで、賢明なマネージャは明らかな失敗なんて犯すことは少ないのですが、そのような時に『その意志決定がベストであったか』と聞くとたいていは皆多少トーンダウンしながらも『う〜ん。いや、あの状況ではベストであった・・・に違いない・・・』と引き下がらず主張します。
重要なのは、『いかに最善の意思決定をとれるか』、『最善が難しければ、次善策をとれているか』ということ考えることであり、絶えず『成功』しても謙虚さを持ち続けることで黙っていても(無意識のうちにでも)次回へむけた『反省と対策』を練り続け、学ぶサイクルを早く・そして短くしていくことで人間的な成長を継続する、ということではないでしょうか。
改善のためには謙虚にならないと改善点が見えてきませんし、改善点を認識しないと自己成長もできないのですから。
皆さんはどうお感じになられるでしょうか。 新連載につづく☆Vol.7 『実力 vs. 信頼 』?☆ ≪連載“信頼される力とは@”≫
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〜現場の話題、落とし穴、失敗などに注目して考えるコラム目次〜 通勤大学MBAシリーズその他の執筆を行うグローバルタスクフォースの編集部によるコラムです。体系的な知識や理論の整理を目的とするGTFの書籍群に対し、より実務的で現場よりのトピックを提供します。 ※本コラムはメンバー向けのメールマガジンの中のコーナーを加筆修正したものです
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