≪連載・・・ニーズの認識って?B≫
〜☆Vo.12『神様を探せ』!☆〜
〜現場の話題、落とし穴、失敗などに注目して考えるコラム〜
前回までで、「すべての」お客様が神様ではないということを考えてみました。いや正確に言うとすべてが神様であってはいけないのです。あとは、どう神様を探すか、が問題です。
●「お客様のニーズ」に対する自分ツッコミの必要性
マネージャ(経営者)として採るべき意思決定はなんとなく合言葉のように使っている「お客様のニーズ」という言葉に対し、アンケートを打ったり、集計結果を分析する前にツッコミをいれる必要があります。
「自社がファンにしたいお客はだれ?」
「そもそも正反対のニーズもあるけど、それってどうよ?」、
「ニーズを満たしてどうするの(!)?」
まとめると、具体的に4つのステップでに分類されます。これによりぼやけた(曖昧な)「顧客ニーズ」をクリアにすることができます。
「(1)どの顧客に購入してもらいたいか」、
「(2)その顧客のニーズの程度はどうか」、
「 (3)その程度と現実のギャップはどうか」、
「(4)そのギャップをどの程度埋める努力を経営方針として行うか」
これらはサービスマーケティングの分野で特に研究されている顧客維持のための基準の一つがベースとなっています。ぜひここで面倒でも考えるだけでなく、実践してみましょう。
●Step1:どのお客様に購入してもらいたいか? (どのお客には購入してもらいたくないか)
顧客維持マーケティングの第一人者といわれるベインアンドカンパニー名誉ディレクターのライクヘルドをはじめ、多くの専門家が指摘し、多くのマーケッターが実践しようとして実際にはなかなか”徹底できない”典型的なポイントです。 みなさんも身に覚えがあるのではないでしょうか?
これは、ターゲティングでいう「絞込み(市場セグメントの選定)」だけを 意味しているわけではありません。
ここでのメッセージは、「いくら対象者以外の顧客に(想定外にも)購入いただける場合であっても、いかに「対象者以外の人に購入してもらわないようにするか」を考えることを意味します。
たいてい、「購入してくれるお客がいるなら別に買ってもらってもいいじゃないか」と考えてしまいがちですが、短期的に売り上げが上がっても、実際に希望しないお客を取り込むことで被る機会損失(顧客対応、クレーム処理、値引き交渉など)のほうがはるかに購入によってもたらされる利益を上回ることが実証されています。
早かれ遅かれ他社に離反するか、そのような顧客を抱えるための維持コストで結果的に損失が大きくなるといわれているのです。このあたりは残念ながら意思決定者が優秀でないとなかなか目先の利益にとらわれて常に忙しいだけの自転車操業から抜け出せないものです。
いわゆるターゲティングで決めた狙うべきセグメントをさらに細かくして自社が希望する顧客を特定し、その顧客に満足してもらえるサービスだけを開発することで、少なくとも特定の顧客には固定客になってもらおうということです。
顧客維持の点でも、顧客対応コストが削減され、ファンであればたとえ他社で1割高いサービスがでても簡単に離反せず(その付加価値がいわゆるブランド)、しかも知人友人に宣伝(Reference)してくれるメリットがあるといいます。
顧客維持力を測るためのツールや制度がこれまでたくさん開発されてきましたが、最新のライクヘルドの研究でも、「知人、友人に(その商品またはサービスを)紹介したいか」という1つの質問だけで、最も実際の顧客維持の結果との高い相関がとれるといっています。
自社がほしい顧客のタイプが絞られていないと、この質問に対する回答も分散してしまうことになるでしょうね。
同じようなサービスを同じような価格で提供する競合にあふれる現代の競争環境では、やはり絞込みの「程度」もこれまでのやり方を180度変えて実践する必要があるのですね。
もちろん、コンシェルジュのようなワントゥワンマーケティングまで進めてはだめ?ということではありません。重要なことは、「製品・サービスのコンセプトとして最低限どの顧客を選ぶのか」という意思決定を行ったうえで、価格や事業方針、顧客の状態に応じたワントゥワンマーケティングを実践する設計(Design)を考えることなのでしょうね。
どうしても没頭すると、ゼロベース思考ができずに、2者択一になってしまうものですが、A or Bといった2者択一で決めるよな単純な話にしてしまうのは危険かもしれません。
●Step2:「“購入してもらいたいお客様“の持つニーズ」はなにか?
購入してもらいたいお客(購入してもらいたくないお客)を「超」具体的に決めることができれば、次はその顧客が「評価」をする価値だけを考えて、サービスの範囲を決めます。
ケロッグスクールのマーケティング戦略でも後者のサービスについて考える観点を「サービスオファリング(標準の汎用的な価値提供とは別個に、ヘビーユーザなどの優良顧客を中心に、オプションサービスを無償または有償で提供するサービスの顧客間差別化)」として、どのような顧客にどのようなサービスのレベルを、いつ、どのような条件で提供することで「顧客維持」を行っていくかを説いています。
●Step3:「そのニーズと自社のサービスのギャップはどこにあり、どの程度開きがあるか」
「購入してもらいたいお客さんが評価をする価値」を明確にすることができたら、次は実際とのギャップ(そのニーズの充足度)を確認することができます。
覆面調査や消費者調査の実質スタンダードとなっているサービス品質の評価方法のひとつであるSERVQUAL(サーブクオル)では、5つのギャップをきちんと測ることで、「なんとなく顧客のニーズを満たしている」というあいまいさを徹底して排除する狙いがあります。
測定する5つのギャップは以下のとおりです。
(1)「該当業界における顧客の期待」と「実際に認知されたサービスレベル」 のギャップ
(2)「顧客の期待」と「サービスの目的(そもそものコンセプト)」のギャップ
(3)「サービスの目的」と「サービスの仕様」とのギャップ
(4)「サービスの仕様」と「実際の提供状況」のギャップ
(5)「実際の提供状況」と「消費者に対する価値提供の告知 (コミュニケーション)」のギャップ
もちろん、それらの前の段階で、企業コンセプト(ビジョンと戦略)の再確認(再設定)や、企業コンセプトに基づく目標値の設定など、全体の一貫性をとるための大前提なしには小手先の「ニーズ把握」になってしまうのはいうまでもありませんが・・・
●Step4:「どのギャップをどの程度埋めるか」
ここまでくるとある程度すべきことに関する優先順位がついてきますが、当然最後には「実行可能かどうか」という点で、そのニーズを満たすためにどの程度のリソース(コスト、人材)を投入できるか」という身の丈を確認する必要があります。
結局はどんな戦略オプションも、(その戦略の)「魅力度」と「実現可能性」の2軸で決めるしかありませんからね。
顧客満足を掲げ、数々の調査を行い、努力している企業は多いですが、簡単にいえば「人手とお金をかければいくらでも満足度を上げることができる」のは小学生でも予想がつきます。
しかし実態は、「他社へサービスを乗り換えた顧客の8割が従来のサービスに満足である」というデータが示すとおり、ぼやけた顧客ニーズの把握とその対策による意味のない顧客満足と売り上げは必ずしも因果関係があるとは限らないのです。
ですから、「特定の顧客」の「本当のニーズ」を徹底的に分析し、それらを満たすValueを丁寧に検証する必要があるんですね。
実際は、ある特徴を持つ顧客を増やすために、「どの要素の」顧客満足度を上げる必要があるか。そしてその満足度を高めるために、どのようなサービスの内容や程度を考える必要があるか、ということにこそ真の「顧客ニーズ」をつかむ意味があるのですね。
ほかにもなんとなくぼやけた「顧客ニーズ」の例と同様の例があります。
それはクレーム対応です。よく「中にはクレイマーもいるから、何でもお客の言いなりになっていたらだめだ」などという話を聞きます。
ここまでの話でも、「お客様は神様ではない」という話なので、「そうそう」とうなづいた方もいらっしゃるのではないでしょうか。
しかし、それは明確に違うのです。
クレームの例(「中にはクレイマーもいるから、何でもお客の言いなりになっていたらだめだ」)というのはあくまで「推測」に過ぎず、定量、定性的に分析をすると、根本的に違った状況が見えてきます。
実際ほとんどの会社では、顧客の1、2%程度が意識的な不正(確信犯)をはたらくにすぎないことがわかっていますが、多くの組織が苦情を申し立てる顧客に対し、クレイマーと仮定して防衛を図っているといわれます。
つまり、1〜2% の常習者に対応するために、残りの98%〜99%の正直な顧客をまるで常習者として扱っているのです。(*Source: John Goodman et al., “Improving Service Doesn’t Always Require Big Investment, “The Service Edge, July-August 1990, 3に引用された発言)
実際、顧客が離反するのは、サービスになどになんらかの苦情を出し、その苦情に対して満足する対応をされなかった場合がほとんどといわれています。
つまり、一回の不満ではそのまま顧客離反につながるわけではなく、不満に対する対応の不備という2重の連続した不満がたまったときに顧客が離れていくことがわかっています。
苦情の対応に不満であった人の89%が二度とその組織と取引することはない、といい、これらの苦情対応について、本社または本部が把握している割合は5%程度に過ぎないといわれています。
つまり、いくらよいサービスで顧客ニーズを満たそうと努力していても、上記のような対応をしてしまった時点で、お客さんの「自分に疑いを持たれたくない」「きちんと個人として対応してほしい」という最低限満たすべき「顧客ニーズ」を完全に裏切ってしまうことになるんですね。
要はみな頭ではわかっていてもいざ具体的に決断をしようとすると合理的な意思決定ができないことがほとんどということなんです。
それも考えてわからないからではなく、考えないでわかったつもりで結局は荒っぽい判断をしてしまうことが「お客様は神様です!」というような盲目的な全お客様至上主義に振り切れてしまったり、いちいち対応してられないと「買いたくなければ買わんでえーわ」と極端な方に振り切れてしまうのですね。
「お客さまのニーズをつかめ」
使い古されて盲目的に場当たり対応しているこれらのキーワードにも日々ゼロベースで自分ツッコミを入れ、「意味」のある「正しい意思決定」を心がけたいものです。
(連載「ニーズの把握とは」? 終わり)
〜現場の話題、落とし穴、失敗などに注目して考えるコラム目次〜 通勤大学MBAシリーズその他の執筆を行うグローバルタスクフォースの編集部によるコラムです。体系的な知識や理論の整理を目的とするGTFの書籍群に対し、より実務的で現場よりのトピックを提供します。 ※本コラムはメンバー向けのメールマガジンの中のコーナーを加筆修正したものです
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