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LEADERS INTERVIEW for Career Management
目標なんていらない!
マネックス・ビーンズ証券株式会社 代表取締役社長CEO 松本 大 氏
▲1963年浦和市(現さいたま市)生まれ。87年3月東京大学法学部卒業、同年4月ソロモン・ブラザーズ・アジア証券入社。90年4月ゴールドマン・サックス証券入社。92年5月にヴァイス・プレジデント、94年11月には、30歳で同社最年少ゼネラル・パートナー(共同経営者)に就任した。創業者を除き、英語圏外で教育を受けた初のパートナーとなる。98年11月同社退社。99年4月マネックス証券(現マネックス・ビーンズ証券)設立、代表取締役社長就任。2000年8月東証マザーズ上場。著書に『10億円を捨てた男の仕事術』などがある。
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■労働量で差が付く
20代は“コンビニの営業時間並み”に仕事をしました。新卒で外資系証券に入社した私は、朝7時には出社して、毎日深夜まで働きました。アパートも会社の近くに借り、長時間仕事ができる環境を整えました。海外で主要統計が発表される日などは、明け方までオフィスに待機したものです。人間の能力にそれほど個人差はありません。だから労働量が多い人には勝てないんですよ。集中して長時間仕事に取り組めば、情報量も生産量も格段に増加、周囲の評価やフィードバックを受ける機会も多くなります。その声に応えてゆけば、いち早くレベルアップできるのです。最初は僅かな差かもしれませんが、数年経てば歴然とした差が付くでしょう。
私は新人時代、自主的に相場の分析リポートを書き始めました。テレビや新聞は「あのニュースがチャートに影響を与えた」といった報道をします。それが本当に正しいのか、自分で確かめようと思ったのです。毎朝、ニュースが配信された時刻とチャートの動きの関係を、丹念に調べ上げました。すると「チャートが動いた後にニュースが流れている」といった意外な事実が明らかになりました。それから私はリポートを先輩に配り始めました。最初はゴミ箱行きでしたが、それでも2週間続けると、先輩から要望や指摘をいただけるようになります。さらに1カ月そのリクエストに応えると、リポートの質が向上し、先輩がこぞって顧客にファクスで送り始めたのです。
当時の私は経営者になろうなんて、考えたこともありませんでした。将来の目標もあったわけではありません。でも、そもそも目標を持つ必要などないのかもしれません。トップマネジメントを目指す人にとって、「自分の目標は何か?」などと悩む時間は“ノイズ”です。マラソンランナーが「何のために走るのか?」なんて考えたら、長時間走るのが苦痛で仕方がないでしょう。プロのランナーは「走り」に集中します。だから次のコーナーも見えてくるし、いつかゴールにたどり着ける。ビジネスパーソンも、目の前にある仕事に没頭することで、道が開かれるのではないでしょうか。
■リーダーは“なる”ものではない
30歳でゴールドマン・サックス証券のパートナー(共同経営者)に就任したときは、特大の満塁ホームランを打ったようにうれしかったのを覚えています。私が外資系証券に入社したころから、急激な円高が進み、ドルベースの給与が円換算で大幅に目減りしました。それでも「いつかまた大波はやってくる!」と思い続け、コツコツ努力をした結果がパートナー就任だったのですから。
経営陣に加わった当初は、「リーダーにならなきゃ」という気持ちが、空回りしていた部分もありました。気負うあまり“空振り”も多かったし、周囲から「何だコイツ」という目で見られていたかもしれません。そんな私が、自分流の経営スタイルを身に付けられたと思ったのは、日本版「金融ビッグバン」を目前に控え、日本の金融が大きく変化しようとしていた時期です。私は会社が何をすべきか、そして自分は何ができるかを考え抜き、社内で「プロジェクト・ビックバン」の立ち上げを主導しました。このストレートな思いで起こした行動に、社内の誰も反発しませんでした。不良債権処理の基本スキームを作ったこのプロジェクトは、その後会社に大きなビジネスをもたらしたのです。
個人的に「リーダーになる」というのは、何か順番が間違っているような気がします。ある作家が「詩人とはいかに詩を書くかではなく、いかに詩的な人生を送るかが問題である。詩的な人生を送れば、おのずと詩は書けるもの」と言いました。リーダーも組織の目的を達成するため、あるときは中心人物、あるときは脇役に徹し、結果をもたらすことによって、自然とリーダーとして認識されるのではないでしょうか。 |
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本質を見抜く眼力
松本氏は、日本の将来に対し鋭い提言を行なう「論客」として知られている。氏のコメントには単なる批判ではなく、ハッと驚かせられる深い洞察が含まれている。例えば、「ペイオフ解禁によって個人金融資産1400兆円が動き出す」と言われているが、松本氏は「住宅ローンなどの“負債”を控除すれば、実際の資産は400兆円程度。しかも一部の層に偏在している」と看破する。「1400兆円」という数字に惑わされた人も、多いのではないだろうか。 こうした意見を出せるのも、松本氏が常に「自分の頭」で事実を捉えているからだ。「“間接情報”なんて使い物になりません。自分で納得して判断しなきゃダメなんです。経営者もトレーダーも『お前がそう言ったから俺は失敗したんだ』なんて言えないでしょう」。 経営者を目指す人は、本質を見抜く“眼力”を鍛えねばならないと実感した。(取材・文/角田 正隆)
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