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『夢に日付を入れ』、チャレンジし続けることで人間として成長できる

レカム株式会社 代表取締役社長兼CEO
伊藤秀博氏


1981年4月、東日本ハウスサービスに入社。新日本工販(現 フォーバル)などを経て、91年4月、アイ・シー・エスを設立。その後94年9月には同業2社とレカム・ジャパン(現レカム)を設立、社長に就任。情報通信機器、OA機器の販売、インターネットサービスなどをフランチャイズ展開する。2003年10月、中国・大連市に子会社を設立しコールセンター業務をスタート。04年5月には大証ヘラクレス市場に上場を果たす。尊敬する経営者は松下幸之助氏。42歳。


独立・起業を支援するサポート体制を構築したいという思いからビジネスをスタートさせたレカム社長の伊藤秀博氏に、リーダーに問われる人間力を聞いた。

--新日本工販での活躍ぶりは今でも『伝説の営業マン』として語り継がれています。営業という仕事には人一倍思い入れ、誇りがあったのではありませんか。

  「営業は自分の努力、能力、経験で仕事のパフォーマンスを発揮できる仕事です。運・不運に関係なく自分の力が試されます。フェアですよね。最も成果がはっきり出る仕事なのではないでしょうか。学歴も関係ありません。その人が努力すれば実績を上げることができるのです。もちろん、お客さまに喜んでいただけることも嬉しいですよね。営業担当者の人間性から価値が生まれるわけですから、満足度が得られて飽きない仕事だと思っています」

--もともと営業志向だったのですか。

  「18歳で営業を始めましたが、それまではとにかく営業は大嫌いでした。イメージが悪かったんです。もし高校を卒業して大学に進学していたら、営業はやらなかったでしょうね。しかし今になって思えば、高校を中退したことは運がよかったといえるかもしれません。高校中退の人間は仕事を選べませんでした。それまでは、近くの野球場でアルバイトをしていたぐらいですから。その後、友人が住宅設備の販売会社を紹介してくれたのです。最初の話は住宅設備の取り付けだということでした。実際に入社してみると『君には営業をやってもらう』と。だまされたと思いましたね。だから営業はやりたくてやった仕事ではないんです。それでも結果的には、運が良かったといえるでしょう。ビジネスの世界では学歴は関係ないと考えています。学歴がないおかげで仕事のなかで、知らないことがあっても恥だと思いません。私は分からないことがあれば『分かりません。その言葉の意味を教えてください』とお願いすることにしていますから。逆に学歴が邪魔をして分からないことを分からないと言えずに失敗しているビジネスパーソンは多いですよね」

--社員には、営業は科学であると説いていると伺いました。

  「キヤノンの元経営者の方が執筆されていたのですが、まさしくそうだなと思いました。営業というととかく俗人的だとか、不確実だと見られがちですが、実は営業ほど数学的に捉えられる仕事はないのです」
  「それまで自分なりに感じてはいたのですが、クリアになりましたね。要は確率論の世界だと。営業は確率だということを意識した上で問題のよりどころを自分なりに分析し、そのための対処方法を考えることが大切なのです。こうすることで、不必要にネガティブにならなくてすみます。また、努力次第で誰でも成功できるようになるのです。こうした考え方は営業だけに通用するものではありません。マネジメントであり、キャリア構築にもあてはまると考えています」 

--レカムを創業してまもない時期に修羅場を迎えたとのことですが、どう乗り越えたのですか。

  「同業2社と合併した直後、派閥意識が生じてはいけないと3つの会社のメンバーを部署ごとに完全にシャッフルしたのです。社員は皆若かったですし、最初にこれをやってしまう方が良いのではと考えました。ところが、やはり以前勤めていた会社のカラーにこだわりがあったのでしょうか。結果は、予想を超える売り上げのダウン。資本金を食いつぶすほどの大幅な赤字でした。とにかくこのままではいけない。全社的に危機感を持ってもらわなければと。社員全員を集め、『この四半期で赤字を解消できなければ、私を含む役員の給与は大幅にカットする。もはやいい悪いと言っている場合ではない』と言い切ったのです。もともと実力があるメンバーが揃っていましたから、その後の3カ月で売り上げを回復することができました」

--その後急成長を続け、遂には上場を果たすまでに至りました。

  「上場できた最大の要因は運が良かったからだと思っています。中国・大連市でスタートしたコールセンター業務でもそれがいえます。当社の顧客である中小企業が、どう受け入れてくれるかテストをすることになったのです。テストを始めたのは2003年5月。折しもSARS騒動真っ盛りの頃でした。多くの日系企業が中国進出を躊躇したにもかかわらず私たちは、事業の準備に着手したのです。現地では『レカムは本気だ』と認識してくれました。もしSARS騒動がなければ、他の会社は中国に積極的に進出していたことでしょう。その場合、現地から多大な協力を得られたかどうか分かりません。実に運に恵まれたといえます」

--レカムの企業理念には「人間として成長することにより社会に貢献する」とあります。こうした思いが強まった背景には何があったのですか。

  「25歳の時に父親が胃ガンで亡くなりました。亡くなる数カ月前から、毎週休みの日には見舞いに行っていました。寝たきり状態になった父親を見ていて、この人は死ぬことを後悔しているのだろうか。それとも、やりたいことをやって満足しているのか。どちらなのかと思ったんです。死ぬ時に、人生に悔いがあるかないか。どうせ死ぬんだったら、一生懸命生きるべきです。死んだ時に、どれだけ悲しんでくれる人がいるかが重要なのです。死んで初めて、その人の価値が分かるといいますよね。どうせ人生を生きるなら、世のため社会のために貢献したいではないですか。そうした人材を輩出していきたいのです。あのレカムにいただけあってという人に独立や転職をしてほしい。レカム出身者がブランドと認識されるようになりたいのです。そんな人材育成をしていきたいですね。これは、業績拡大とは別の価値があると考えています」

--ビジネスリーダーを目指す方にメッセージをお願いします。

  「ビジネスリーダーに問われる資質を挙げるならば、第1に言行一致であること。第2に理念を共有するために何度も何度もしつこく語り続けること。そして第3に失うものは何もないという気持ちです」
  「『夢に日付を入れる』という言葉が大好きです。いつまでということが漠然としていたら夢は単なる憧れに過ぎません。夢を憧れに留めず、日付を入れることで目標に変えてほしいのです。期限が区切られると人間はそれに向かって努力をします。必死になれる環境に自らを追い込むことで目標を実現できるはずです」
(取材・文 袖山 俊夫)
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