CEO育成ポータル





LEADERS INTERVIEW
for Career Management

「ベストセラーよりロングセラー」

株式会社パソナ
代表取締役グループ代表兼社長
南部 靖之氏

1952年神戸市生まれ。76年2月、「家庭の主婦の再就職を応援したい」という思いから、大学卒業の1カ月前にテンポラリーセンター(現パソナ)を設立。2001年12月ナスダック・ジャパン(現ヘラクレス)上場。03年10月東証1部への上場を果たす。著書に『人財開国』など多数。

ビジネスリーダーの条件

 ビジネスリーダーの条件は、第一に「活力」ではないでしょうか。「活力」とは体力であり、いかなる状況でも揺らがない精神力です。私がパソナを創業したのは、まだ「人材派遣」という言葉すら存在しなかった時期。しかし、私は雇用システムが終身雇用から人材派遣の活用へシフトすると確信。社員や取引先など周囲のあらゆる人に、「将来、人材派遣が当たり前の世の中になる」と、熱心に、何度も説いて回りました。自らの言葉で語りかけるうちに、それが強固な「信念」となり、少しずつ世の中が変化し始めたのです。

 もう1つ、ビジネスリーダー必須の条件が、周囲の人の一生涯に対し「影響力」を発揮し、強固な組織基盤を構築する力です。パソナの創業メンバーとして集った仲間に、私は「一緒に世の中を変えよう!」と何度も語りかけました。それが仲間に勇気と希望を与え、彼らを鼓舞しました。「志」を共有した仲間は、創業から30年経った今も、誰一人としてパソナを離れていません。

MBAは有効か?

 私は経営者の資質として、経営戦略・マーケティングなどの知識は、1つの“ツール”だと考えます。むしろ、私が長年携わってきた起業家支援や、多くの人物に会った経験から言うと、“SQ(スピリット・クオーシェント/精神指数)”が、経営者として成功する条件だという信念があります。SQは、IQ(知能指数)やEQ(心の知能指数)と並ぶ、人材を計る尺度。その人の「志」や「意欲」、そして「勇気」を表しています。

 一方で、私は知識を軽視しているわけではありません。このページの読者は、MBA保有者も多いと聞いています。私も35歳でアメリカに移り住み、「MBAエグゼクティブコース」を受講した経験があります。そこで学んだビジネスを理論的・体系的にとらえるスキルや、過去の成功・失敗事例を数多く学ぶといった訓練は、私が経営者として意思決定する上で、非常に役立っています。しかし、日本では座学が座学のまま終わる傾向があります。中国の陽明学に「知識を付けることは、行動することの始まりであり、行動することは、付けた知識を完成させることである」という言葉あります。この言葉に従いMBA保有者も、実践を通じ知識を血や肉とすれば、MBAで得た知識は、さらに威力を発揮するでしょう。

すべては夢から始まる

 人の上に立つ人物になるには、常に自分の手が届く以上の夢を、持ち続けねばなりません。すべては夢から始まるのです。高級車に乗りたい、お金持ちになりたい、会社を上場させたい―――。最初の段階では、自分や身近な人にかかわる夢を抱くのは自然なことだと思います。しかし最終的には、その「夢」をさらに延長させ、社会を改革したいとか、世の中に革命をもたらしたいといった、「志」の領域に到達しなければなりません。すると、すばらしい世の中を作るという大義の下、“正々の御旗”を立てることができるのです。私が20代のころに抱いた夢は、新しい雇用形態である派遣を日本に根付かせることでした。その夢は当初から、ほとんど「志」に近いものでした。だからこそ多くの方に助けられ、多大な支援をいただいてきたのです。私は本当にいい仕事を選んだと、今でも思っています。

 価値には、他と比べようもない“絶対価値”と、偏差値のように他と比べる“相対価値”があります。「志」というのは“絶対価値”に属します。ビジネスも新しい市場を立ち上げた当初は、純粋な“絶対価値”に基づいて事業展開できます。ところが何年か経ち、同業が市場に参入すると、市場シェアの奪い合いが始まり、売上高や利益を競う“相対価値”を追い求める風潮が生まれます。すると企業は栄枯盛衰の渦に巻き込まれ、中には「大義」を失い、「利益」を追求する企業が現れる。最近、世間を騒がせている一連の企業不祥事も、より多くの利益を上げる“相対価値”にしか視線がいかなくなり、自分を見失った結果起きた出来事ではないでしょうか。

 パソナは約20年以上前から、有望なベンチャー企業として注目されてきました。しかし、私はそれらに全く動じませんでした。売り上げや利益だけを求めることはせず、当初から創業25年までは株式上場をしないと決めました。なぜかというと、若いうちにお金を得たために、身を滅ぼす例を何度も見てきたからです。最近、株式上場益で多額の資産を築いた起業家などが、各種メディアなどを通じ、礼賛されているようです。私が数名の起業を目指す人に、起業する理由を尋ねると、「上場させるため」とか「お金持ちになるため」といった答えが返ってきました。お金持ちを目指すのが悪いとは言いませんが、何のための株式上場なのか大いに疑問を感じますね。私は、パソナグループ内部でベンチャーを立ち上げた若手経営者などに、「設立10年ぐらいは上場せずに、ひたすら汗水流せ」とアドバイスしています。なぜなら、10年事業を継続する力がなければ、それは一過性のブームで終わる『ベストセラー』に過ぎません。上場後も成長し続け、広く社会に貢献する『ロングセラー』となり得ないからです。

転職は自分を鍛える手段

 ビジネスリーダーを目指す人にお勧めしたいのは、まずは素直な気持ちで仕事に取り組み、何度も新しいチャレンジを繰り返すことです。特に強調したいのが“継続的”にチャレンジし続けること。これは相当意識して取り組まなければ不可能です。「苦労は買ってでもせよ」と言います。過去の成功事例に何も考えず従ってしまうなど、安易な道に流れぬよう常に自分を律しながら行動してください。

 そういう意味で転職は、企業文化の違いと直面しながら人間を大きくする、有効な手段の1つだと思います。組織のカラーに染まってはいけません。会社のためではなく、自分のために生きるのであれば、新しいことに挑戦し、会社が変わっても生き残れるよう、さまざまな経験を積んでおくべきです。規制や組織に守られたエリートは、環境変化に極めて弱い存在でした。強くなるには、環境変化に自ら立ち向かい、実力を磨き上げるしかありません。

多様な価値観を認め、懐の広い人物になる

 ベンチャー企業というと「若者同士が集り、若さ任せて突っ走っる」というイメージがあるが、南部氏は20代でパソナを立ち上げた当初から、高齢者や主婦など企業がなかなか採用しない人材を積極的に登用してきた。南部氏は人材派遣以外にも、輸入品内外価格差の是正など、時代を先取りする斬新なビジネスを生み出してきた。その柔軟な発想力の源は、多様な価値観を持った人を認める、懐の広さではないだろうか。

(取材・文/角田 正隆)
日経BizCEOは、日経Bizキャリアと世界最大の公式MBA組織日本支部を兼務するグローバルタスクフォース(GTF)の共同サイトです。

Copyright 2004-2006 Nikkei Human Resources, Inc., all rights reserved.
Global Taskforce K.K., all rights reserved.