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LEADERS INTERVIEW
for Career Management

講演録
「勝負は準備で決まる」!


株式会社カブドットコム証券
代表執行役社長
齋藤 正勝氏


1966年生まれ。89年多摩美術大学卒業、同年野村システムサービス入社。93年第一證券入社。ネット証券会社の設立を目指し、同社退職。98年伊藤忠商事入社、ネット証券立ち上げプロジェクトに参画。99年日本オンライン証券設立と同時に入社、情報システム部長に就任。2001年4月、同社とイー・ウィング証券が合併してカブドットコム証券となり、執行役員情報システム部長に就任。2003年6月同社代表取締役COO。2004年6月同社代表執行役社長。著書に『本気論―フリーターから東証一部上場企業の社長になった男の成功法』がある。


「勝負は準備で決まる」

世の中に「やる気のある人」はたくさんいます。この講演会に足を運ぶ。それだけでも皆さんは、「やる気のある人」だといえます。しかしその中でも成功するのは、「何事も準備が大切であること」を理解している人だけです。

 例えば皆さんが転職するとします。そうなれば早速、履歴書や職務経歴書を書くでしょう。通常これらの書類は、ほぼ様式が定型化された“規定演技”であり、アドリブの余地がありません。ところが、私が採用する側の立場で多くの応募書類を見たとき、ただ1人、履歴書と職務経歴書のほかに、当社に対する思いをつづった熱い文章を送ってきた人がいました。彼は、当社を同業他社と比較・分析した上で、具体的な改善策を提案していたのです。後日、実際に面接で彼に会うと、彼は緊張のあまり全然上手に話せません。だからといって彼をマイナス評価しませんでした。なぜなら面接はあくまで一発勝負ですが、準備できる部分でどれだけ努力しているかがビジネスパーソンとして重要だと判断しているからです。

 確実に言えるのは、十分な準備を行えば成功確率は高まり、失敗の原因は準備不足だということ。準備不足で事に向かえば必ず後悔します。これはビジネスも同じ。だから、むしろ準備している姿をアピールしてほしいんです。

 この「準備」「段取り」「仕込み」のよさが、私の唯一の長所かもしれません。自分自身、決して頭がいいとは思ってませんし、昔から私よりもっと頭のいい人がたくさんいました。ただ、私は同年代のビジネスパーソンの中で、最も労働時間が多い部類に入る自負があります。社会人として仕事を始めたときから、誰よりも多く働き、それを積み重ねてきた結果、今では絶対に追いつけないぐらいの差を付けました。学生時代の先輩はせいぜい4歳ぐらい年上でしたが、社会に出ると20歳以上のベテランと同等に渡り合わねばなりません。実際、当社の同業他社のトップは、私より20年以上のキャリアがあります。だからといって、彼らが手を抜いてくれるわけではないでしょう。そのギャップを埋めるためにも、私は常に準備し続けるしかないのです。

エリートVS非エリート

 私がこれほどまで「準備」にこだわるのは、私が美術大学の出身で、新卒で入社したシステム会社にも補欠で入社するなど、決してエリート街道を走ってきた人間ではないからです。同期には一流大学の理工学部出身の人もいて、彼らは本流のシステムエンジニアやプログラマーとして配属され、毎朝スーツを着て出勤していました。ところが、私が配属されたのは、運用やメンテナンスなどを担当する「閑職」。仕事といえばオープンリールのテープ交換や、他人が書いたプログラムをパンチング入力する単純作業ばかり。夜勤もあり、毎日作業服を着て働いていました。正直、“掃き溜め”のような部署でしたから、誰もやる気がないんです。周囲は暇に任せて仲間と麻雀をしたり、漫画を読んでいました。それでも私には、SE(システムエンジニア)やPG(プログラマー)として活躍したいという強い願望がありました。そこで周囲の先輩に「どうすればSEやPGになれるか?」と聞いて回りました。すると先輩は、その仕事に必要な知識や資格が何か教えてくれました。大学で情報処理を学んでいた同期に比べ、確かに美術大学出身の私は技術的な知識が欠けていたのです。以来、空き時間を見つけては、情報関連の資格取得を目指し、猛勉強しました。そして3年ほどで、私は必要な資格や知識をすべて身に付け、ようやく希望するポジションへの異動を実現させたのです。


会社は相対評価

 経験から、私は会社組織とは常に「相対評価」することを学びました。つまり、会社組織は1つの組織(部署)の中で1番努力した人を評価するのです。今思うと「閑職」にいたからこそ、私の努力が際立ったのかもしれません。その点、最初からエリートとして採用された人は、花形部署に配属されますが、そこにはトップクラスの人材が集められているため、普通以上の結果を出しても「当たり前」と思われるだけです。そしてもう1つ、「人は才能に嫉妬する」ことを頭に入れて置くべきです。これまで、素晴しい才能や能力を持った人が周囲に嫌われ、成功しなかったケースをたくさん見てきました。一方、泥臭いまでに努力する人を、周囲は応援するものなのです。

 私がこれまで実践し、また皆さんにお勧めしたいのは、朝30分誰よりも早く出社すること。実に簡単なことですが、これだけでかなり頑張っているように見えるものです。多くの企業でトップや部長クラスは、朝早く出社しています。朝早く出勤すれば、そういう人から評価されるのは間違いありません。資格の勉強も、皆さんは家でコッソリやるものとお考えかもしれませんが、そんな風にカッコつける必要などなく、会社で堂々と勉強すればいいと思います。しかもなるべくなら朝早く出社して勉強しましょう。

 朝1人で勉強していると早く出社した部長が、「よっ、君は朝早いね。何しているの?」などと聞いてきます。そのときあなたは「情報処理の資格を取るために勉強しているんです」と答えます。すると部長は「じゃあ、何でも俺に聞いてくれよ」と言って応援してくれるでしょう。そしたら遠慮なく分からないことを部長に聞けばいいんです。そして合格したら真っ先に「部長のおかげです」と報告しましょう。きっと“祝勝会”を開いてくれますよ。そしてその場で「実はこういう仕事をやってみたいんです」と打ち明ければ効果てきめん。その部長は、きっとあなたにいい仕事を与えてくれます。これをカッコ悪いことだと思う必要などありません。

 どの世界でも頑張っている人、そして謙虚に先輩を立てる人が成功します。そういう人は、それほど派手な仕事をするわけではありませんが、徐々に大きな仕事を成功させ、最後にとてつもなく大きな仕事をやってのけるのです。

「分かりやすく努力せよ」

 齋藤氏はいつも「分かりやすく努力せよ」と強調する。朝早く出社する、努力する姿を人に見せる。決してスマートなやり方ではないが、もし齋藤氏がそれをやらなかったら、今も作業服を着る夜間勤務のままだったかもしれない。「閑職」からチャンスをつかみ、徒手空拳で大手企業から資金を引き出し、インターネット証券を立ち上げた齋藤氏らしいやり方である。努力する姿を隠すよりも、努力する姿をアピールして現状を改め、結果を残す人の方がカッコいいと思う。

(取材・文/角田 正隆)

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