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LEADERS INTERVIEW for Career Management
「それなりの人、ならではの人」
ボストン コンサルティング グループ 日本代表
水越 豊氏
▲1956年生まれ。東京大学経済学部卒業。80年新日本製鉄入社。88年スタンフォード大学MBA。90年ボストン コンサルティング グループ入社。2004年シニア・ヴァイス・プレジデント就任。05年1月日本代表就任。著書に『BCG戦略コンセプト』がある。
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■常識を破壊できる人が未来を切り開く
高度成長期のようにコストダウン、品質向上といったオペレーションが主な経営課題だった時代は、“お神輿に乗る”ミドルマネジメント主体の経営でも、ある程度の収益を残せたかもしれません。しかし、他社に追随してマーケットでそこそこの位置に付ける“me too”経営は、シェア1位か2位でなければ生き残れない現代の市場環境では通用しません。すべての企業が断続的にパラダイム変革を迫られています。リーダーはその都度“何を捨てるか”明確にしなければなりません。「売上高は無視して品質に徹底してこだわれ!」「技術者としてのプライドは一切捨てろ!」など、従来の常識を“破壊”できる人が、未来を切り開くリーダーだと言えます。
私はこれまでエリートと呼ばれていた人の多くは、上記のようなリーダーにはなれないのではと考えます。従来型エリートは「受験秀才」です。試験には必ず正解があるのが前提であり、苦手科目をそつなく克服して「それなり」の点を出す習慣が身に付いています。彼らは“me too”経営には合っているかもしれませんが、正解のない問題に立ち向かい、問題自体を設定するタイプの経営者にはなれません。むしろ、苦手なものは平均点以下でも構わないので、何か1つのことに図抜けていたり、圧倒的な強みを持つ人材が望ましい。つまり「それなり」の人ではなく、この人でなければできない「ならでは」の要素を持った人です。キャリアアップを図っていく上では、徹底的に強みを伸ばすことに専念すべきだと思います。
■一段深く考え全体の視点で考える
読者がビジネスリーダーになるために、すぐ実践できることを2つアドバイスしましょう。1つは「一段深く考えること」です。例えば、営業部門にいるあなたは「1人あたりの売上高を向上させる」という課題を抱えていたとします。この課題は日頃からなんとなく考えていることかもしれませんが、「本当にそれでいいのか?」「なぜ現状がそうなっているのか?」など、より高い視座から突き詰めて考えることで、新たな発想を生む糸口が見つかるのです。
もう1つは「全体の視点で考える」習慣を付けること。これもいざ実践するとなかなか難しいものです。仮にあなたが直属の上司に「コスト削減せよ」と指示されたとします。そのとき社長の目線で会社全体のことを考えてください。すると過剰なコストダウンは品質低下などのデメリットもたらし、会社に大きなマイナスを与えることに気づくかもしれません。「全体の視点」があれば、単純なコスト削減は避け、品質に影響を与えない費目からコストダウンする、といった代替策が提案できるのです。 |
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■相手の一歩先を読む
私はボストン コンサルティング グループに入社する前の14年間、新日本製鉄に勤めていました。20代のころは、そこで随分鍛えられたと思っています。そのころのエピソードを1つ紹介しましょう。入社3年目に本社海外営業部門に異動し、企画調整担当として部門の計画策定や予算管理に携わることになりました。ところがその直後、アメリカへの大量の鉄鋼輸出が日米間の通商問題に発展。通産省(現経済産業省)の主導で輸出自主規制を実施することになり、私は業界各社の代表で構成されたタスクフォースに参加しました。各社にとってアメリカ向け輸出は会社の“生命線”といえるもの。それだけに関係者間の綱引きは激しく、鉄鋼メーカー間はもちろん、鉄鋼メーカーと商社との間でも主導権争いが勃発しました。その上タスクフォースがまとめる案は、通産省やアメリカが納得できるものでなければなりません。こうした状況の中、私は常に「相手の一歩先を読むこと」を意識しました。1つのことを提案する際には、考えうるあらゆる選択肢を想定し、そのメリット・デメリットを分析。そして1つの選択肢を選んだ結果、同業者はどんな反応を示すかといった次の展開まで予想しました。さらに、この選択肢に通産省やアメリカがどんな反応を示すか、「全体の視点」からも思考を重ねていました。前例も正解もない状態からベストな解を求め、朝刊が届く前に帰宅する日が珍しいほどハードに働いた経験は、現在の仕事のベースになっているほどです。常に不安に悩まされ続けるストレスフルな仕事ですが、読者には正解のない仕事にこそ果敢に挑んでほしいと思います。
「“背伸び”が自分を鍛える」
水越氏は新日鉄の新人時代、八幡製鉄所で組織管理・設計の仕事をしていた。工場とはいえ従業員は1万人を超え、約20カ所もの事業所がある巨大組織。業務効率化・プロセス管理のためには、組織管理・設計のスペシャリストが必要だったのだ。しかし、この仕事は増員を望む部門長に、組織の縮小を言い渡す厳しい場面もある。あるべき組織像を追求するほど、各部門長と利害が対立するケースが増える。「当時、交渉相手のほとんどが部長クラス以上でした。それでも逃げずに自分の意見を強く主張して、同時に自分の発言に責任を持ちました。部下や後輩にやれと言うのは簡単ですが、上司と渡り合うには自分の頭で考えて、自分の言葉で語れなくてはいけません。そういう“背伸び”でずいぶん鍛えられましたよ」。まさに「虎穴に入らずんば虎子を得ず」。手強い相手との知的格闘が、未来のビジネスリーダーを鍛える。
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(取材・文/角田 正隆)
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日経BizCEOは、日経Bizキャリアと世界最大の公式MBA組織日本支部を兼務するグローバルタスクフォース(GTF)の共同サイトです。
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