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LEADERS INTERVIEW
for Career Management

「権限ではなく
人としてリーダーに」


コールド・ストーン・クリーマリー・
ジャパン
社長兼COO

石原一裕氏


1967年島根県生まれ。90年横浜国立大学経営学部卒業、同年伊藤忠商事入社。食品部門で加工食品の輸出入業務、営業に携わる。97年ダノンインターナショナルブランズジャパン(現ダノンウォーターズオブジャパン)出向、ミネラルウオーターのセールスマネジャーとして活躍。2000年8月タリーズコーヒージャパン入社。2001年取締役、2002年常務取締役就任。2005年6月コールド・ストーン・クリーマリー・ジャパン社長兼COO就任。


リーダーの条件は「情熱」と「人間力」

  コールド・ストーン・クリーマリー・ジャパンは、米国で約1250店舗を展開している有力アイスクリームチェーンの日本法人。2005年11月にアジア第1号店を東京の六本木ヒルズにオープンさせ、2006年3月17日に3店舗目を出店しました。フィギュアスケート荒川静香選手の公式サイトで、荒川選手が第1号店でアイスクリームを食べている写真が掲載された効果などもあり、おかげさまで連日行列ができる盛況です。当社の商品はアイスクリームとナッツやフルーツなどを混ぜ合わせてつくる独特なものです。

  私は2005年6月、当社CEO澤田貴司(リヴァンプ代表パートナー)に招かれ社長兼COOに就任、店舗運営に関する意思決定のほとんどを任されています。一般的なCEOとCOOの役割分担とは違うかもしれませんが、コールド・ストーンではCEOの澤田は日本法人ファウンダー(創業者)という「象徴的な存在」としたい。一方、COOの私は現場に深く入り込み、毎日当社の素晴しさを体感している。だから私は社長・COOとして当社の経営をリードし、誰にも負けない確固たるフィロソフィー(理念)で従業員と世界中をハッピーする役割を担いたいと思っています。

  まだ私は30代ですから読者の皆様と近い目線で、現在進行中の「CEOへのステップ」をお話しできるのではないでしょうか。

  これまで多くの経営者と会い、タリーズコーヒージャパンの経営に参画した経験などから、ビジネスリーダーの条件は「情熱」と「人間力」、そして「謙虚さ」に尽きると信じています。情熱とは最後まであきらめないこと、目標達成にどん欲であること。人間力とは社長という権限だけで組織を率いるのではなく、「○○さんだから付いていく」と、組織の中で自然にリーダーになることを意味しています。こうしたビジネスリーダーになるには、今、自分の目の前にある仕事に死ぬ気で取り組むしかないと思います。

  大学卒業後、まず伊藤忠商事に入社しました。食品部門に配属された私は、加工食品の輸出入・物流業務を担当することになりました。新人は入社から3、4年ぐらいは、こうした実務で基礎を学ぶことになります。早くこの仕事をマスターして営業に出たかったのですが、私が配属されたのは社内で最も業務量の多い部署の1つ。単調な事務処理の繰り返しも多く、連日の深夜残業、休日出勤が余儀なくされていました。もっと大きなスケールの仕事をしている同期もいたので、とてもうらやましく思ったこともありました。

  しかも当時は今のようなパソコンなどありません。ほとんどが手作業であっため、在庫と帳簿残高が合わず、付け合わせ作業などのための残業や、残高が合わないことによる差損が発生していました。そこで、元来「面倒くさがり」の私は、まだ社内であまり例のなかった情報システムを導入し、事務を合理化しようと考えるようになりました。

  早速、スタッフの女性たちをランチに誘い、システム導入へのヒアリングを実施。上司やシステム部門を巻き込み、システムの完成にこぎつけました。どちらかといえばシステムは苦手なほうですが、スタッフの女性たちも自分の仕事が改善するとあって、忙しい中でも会議に積極的に参加してくれたり、活発に改善点などを提案してくれました。おかげでシステムは上手く機能し、差損やスタッフの女性の残業が大幅に減少。結果的には投資を数年で回収できました。地味な仕事も本気で取り組めば成果が生まれ、キャリアアップできると実感しました。

  その後念願の営業に移り、加工食品の営業を経て、海外ミネラルウオーターの輸入・販売を担当しました。当時は海外メーカー、輸入者、販売者がそれぞれの事務所で別々に仕事をしていたのですが、私はパートナー企業間のより密なコミュニケーションが必要と考え、海外メーカーの日本事務所内に輸入・販売各社の担当者を集めたチーム結成を提案しました。異例の提案でしたが認められ、私は出向してセールスマネジャーとして販売に注力。密な連携が取れるようになったこともあり、業績は好転していきました。

ライバル出現、「数字に勝った」
 
  売り上げも少しずつですが、順調に推移していたところに、大きな問題に悩まされることになります。海外ブランドにはつきものですが、輸入・販売権は、数年ごとに更新する契約。ところが更新のタイミングを狙って、ライバル企業各社が契約切り替えを提案しているというんです。ライバルたちの出現を知ったとき、ビックビジネスを失うかもしれない危機感から、胃がキリキリと痛んだのを覚えています。ライバル企業は国内随一の販売力を持った会社を含め、いろいろな提案を仕掛けていると思われました。しかし、このビジネスは我々が長年育ててきましたし、ブランドを心から愛していましたから、絶対に失いたくないと思いました。

  普段にも増して営業活動に力を入れ、会社から目一杯の提案を引き出すべく、上司や担当役員に掛け合いマーケティング費用を確保。メーカーの本国にも上司とともに飛んでプレゼンテーションしました。それでも数字だけを単純比較すれば、我々の提案はライバル各社に及ばないものだったかもしれません。

  1年がかりの交渉の末、契約更改に至りました。しかも、じっくりとブランドを育成していくために、契約期間を過去の何倍にも延長した長期契約の締結に成功しました。正直な話、どうして我々が勝ったのか、その理由は分かりません(笑)。ただ、我々がどれほどこのブランドを愛しているか、その情熱を毎日の仕事振りを通じて見せ、相手方に「このチームと組もう、彼らを応援してやろう」と思わせた結果だと思っています。

  上司・役員を含め関係各社で構成した我々のチームで勝ち取った契約ですから、この契約を勝ち取ったときは本当にうれしかったし、涙が出ました。今でも調印式の記念写真を手帳に忍ばせ、自分のビジネス人生の原点となった出来事を忘れないようにしています。


一目ぼれと先輩と、大切な出会い

  経営者を目指すビジネスパーソンは、人との出会いを大切にすべきだと思います。これまで私の転機はすべて人との出会いによってもたらされてきました。タリーズコーヒーに入社したのは、松田公太社長と出会いそのオーラに惚れ込んだからですし、当社COO就任のきっかけも、伊藤忠の先輩でもある澤田と知り合う機会があったからです。皆さんはこれから多くの人と出会うはず。それも「CEOへのステップ」です。海外とのコミュニケーション力、規模拡大に応じた経営管理能力など、私が経営者としてステップアップするための課題もたくさん残されています。

 問題が『うれしい』

  石原氏は何か問題が起きると「うれしい」と感じるという。「問題が起きるということは、ありがたいことです。自分に対する期待だと解釈できるし、自分はそれを解決できると信じているんです。何とか解決したいという強い思いがあれば、不思議なことに問題解決につながる人物やヒントが自然と表れるもの。チャンスは誰でも平等ですが、それに気づく人、気づかない人がいるのは思いの大きさの違いではないでしょうか」。今後、さらなる事業拡大を目指す同社は、さまざまな経営課題に直面するはず。だがそれは石原氏にとって、経営者として成長するための願ってもないチャンスなのだ。

(取材・文/角田 正隆)

日経BizCEOは、日経Bizキャリアと世界最大の公式MBA組織日本支部を兼務するグローバルタスクフォース(GTF)の共同サイトです。

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