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LEADERS INTERVIEW
for Career Management

「CEOはキャリアビジョン
を語れ!」


日本マクドナルド
ホールディングス株式会社
代表取締役会長 兼 社長
兼 CEO 原田 泳幸 氏

1948年長崎県生まれ。72年東海大学工学部通信工学科卒業、同年日本NCR入社。80年横河・ヒューレット・パッカード(現日本ヒューレット・パッカード)入社。83年からシュンベルジェ日本法人立ち上げに従事。90年アップルコンピュータジャパン(当時)入社。97年アップルコンピュータジャパン日本法人社長、米国アップル副社長就任。2004年2月日本マクドナルド入社、CEO就任。2005年3月日本マクドナルドホールディングス代表取締役会長 兼 社長 兼 CEO就任。ハーバード・ビジネススクール アドバンスト マネジメント プログラム修了。著書に『とことんやれば、必ずできる 創造力が目を覚ます』(かんき出版)がある。

CEOは職種 マックからマックへ

 アップルコンピュータ日本法人社長だった私が、まったくの異業種である日本マクドナルドのCEOを引き受けた背景には、「CEOは職種である」という自分の考えがあります。ある業界で高い業績を上げた営業の人が、別の業界に移っても活躍するように、CEOも「経営のプロ」として業界の垣根を越えて移籍する時代となってきました。

 そのCEOの役割には大きく2つあると考えています。1つは「クリアな戦略を打ち出し、浸透させること」。戦略とは作業を一覧化した「to do リスト」ではなく、何をやり何をやらないかを決め、それを時系列的にナビゲーションすることです。マクドナルドで実践してきたのは、まず全社員に明確なゴールを示し、ゴールまでの細かいステップを分かりやすく伝え、リードすることでした。ゴールまでの道筋はまっすぐではありません。「まずは右へ行こう」、「次は山を乗り越えろ」、「ここは一目散に走れ」など、今やるべきことを細かく具体的に伝えてきました。

最も重要な役割は「人材開発」

 もう1つの重要な役割が「ピープル・ディベロップメント(人材開発)」です。CEOは単なる「戦略ナビゲーター」ではなく、戦略を実現させる「実行力」が常に問われます。その実行の成否を最も大きく左右する要素が「人」です。人材のトレーニングはもちろん、タレント(才能ある人)の採用、エンパワー(権限委譲)にCEOが深く関与することが重要です。マクドナルドに移ってからの2年間、最も力を入れてきたのが人材開発といって過言ではありません。

 以前のマクドナルドは年功序列の色彩が強く、良くも悪くも「平等主義」でした。私は全社員に仕事の機会をフェアに提供し、フェアに成果を評価するよう改革。昇進・任用に公募制を導入し、先日も部長を5人ほど公募しました。年齢など一切関係なく応募できるようにした結果、何十人もの候補者がエントリーしました。候補者全員と面談を繰り返し、会社は適任者を選び、候補者も面談を通じ新たな仕事にコミット。会社と個人の対等な関係を築くことに成功しました。

 報酬体系もフェアなものに改めました。私の考えは「能力にカネを払うのではなく、成果に対してカネを払う」というもの。かつて当社は全社員に1万円ずつ「平等」に報酬を配ったことがありますが、私は貢献度の高かった人に多くを報いる「公正」な制度にしました。それを実感してもらえるよう報奨制度にも工夫しています。

 例えば、成績優秀な社員はシカゴで開催された「プレジデントアワード」に夫婦同伴で出席する機会を与えました。コンテストで優秀な成績を収めたクルーには、2月に開催されたトリノオリンピックの選手村に開設したマクドナルドの店舗に派遣しました。

 会社に貢献するだけではなく、日本の将来を担う人材を育てる―――。経営者として私が一番やりがいを感じている仕事です。

 
CEOはゴールではない

 人材開発の中で忘れられがちなのが「後継者育成」です。CEOが職種である以上、CEOになること自体がゴールではありません。CEOという地位に居座ろうとするなら別ですが、組織を活性化させ、次を担う人材を育てるためには、CEOが自らキャリアビジョンを語る必要があります。CEO自身が将来の可能性を感じながら仕事をしていること、部下にキャリアを伸ばすチャンスがあることを伝えなくてはなりません。

 実際、優れた後継者が育っていなければ、大きなチャンスが巡ってきたときに、それを引き受けることができないでしょう。私はいつも「あと20年働くぞ」と言ってますし、世界100カ国以上に展開しているマクドナルドには、日本だけではなく世界で活躍するチャンスがあるのです。

難しい仕事に取り組め

 このコーナーの読者は「CEOを目指している人」と聞いていますが、現在CEOになっている人の多くは、若い頃からCEOになろうとしてなった人ではありません。私自身、まさかマクドナルドのCEOになろうとは考えもしませんでした(笑)。その日その日を有意義に過ごそうとするうちに、次第に自分の価値が高まり、結果としてCEOになったのでしょう。

 自分の価値を高めるには、常にチャレンジが欠かせません。私がエンジニアとして働いていた新人時代は、次のプロジェクトが始まるまでの空白期間が、無駄に思えて仕方がありませんでした。そんなときは上司に「早くもっと難しい仕事をやらせてください!」と願い出たものです。

 業種を問わず活躍するCEOになるには、多種多様な経験がベースとして役立ちます。私もさまざまな職種、マーケットで仕事をしています。最初はエンジニアでしたが、セールスやマーケティングを経験。しかも、半導体、重電、防衛関連などの法人向け、写真家、ミュージシャンといった個人向けのあらゆるマーケットを相手にビジネスをしました。何の脈絡もなく職を転々とするのは論外ですが、3年以上同じポストで同じ仕事を続けているようでは、大きな成長は望めないかもしれません。

リーダーシップの要は「セルフコントロール」

   リーダーシップと聞くと、周囲をグイグイと引っ張る「番長タイプ」が思い浮かぶ。しかし原田氏の考えるリーダーシップは、「チームのパフォーマンスを最大化させる“セルフコントロール”」なのだという。口を出したいと思ったときにあえて黙っていたり、適切な質問をすることなどでチームの中でリーダーシップを発揮する。

  このように考えればリーダーシップは、“声が大きくなくても”実践できるのが分かる。「役職問わずすべての人にリーダーシップを取るチャンスがあります。チームパフォーマンスの最大化を心がけることで、自分の価値を高めることができ、キャリアの幅が広がるでしょう」(原田氏)。

(取材・文/角田 正隆)

日経BizCEOは、日経Bizキャリアと世界最大の公式MBA組織日本支部を兼務するグローバルタスクフォース(GTF)の共同サイトです。

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