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LEADERS INTERVIEW
for Career Management

「非連続」を生むSNS的経営


グリー株式会社
代表取締役社長 
田中 良和氏


1977年東京生まれ。99年日本大学法学部政治経済学科卒業、同年ソニーコミュニケーションネットワーク入社。2000年楽天入社、オークション、ブログなどの新サービス開発を担当。2004年2月、ソーシャル・ネットワーキング・サービス「GREE」を個人で立ち上げる。同年12月グリー株式会社設立、代表取締役社長就任。著書に『僕が六本木に会社をつくるまで』(ベストセラーズ)がある。

創業メンバーにこだわる

 楽天に在籍しながら個人で立ち上げた、ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)「GREE」。2004年2月に初めて友人4人を招待し、その後1カ月で1万人のユーザーを獲得。その年10月には10万人を突破しました。ある日ユーザーから「田中さんに万が一のことがあった場合、このサービスはどうなるんでしょう?」というメールを頂き、サービス運営者として責任を痛感したのが転機でした。しっかりした組織が必要と考え、その年12月にグリー株式会社を設立。社長就任から約1年半が経ちました。

 会社を立ち上げ最初に着手した仕事はメンバー集めです。特に創業メンバーにはかなりこだわったつもりです。僕は楽天に50番目ぐらいの社員として入社し、辞める頃にはグループで数千人の大組織になっていました。そのプロセスの中にいて痛感したことが、スタートアップメンバーの優秀さとモチベーション高さが後々の急成長を支えていたこと。「後からいい人を入れればいい」というわけにはいかないのです。

 グリーには「高い成長意欲や若々しさが必須条件」と考えた僕は、2人の人物に声を掛けました。1人は当社副社長の山岸広太郎。学生時代からの友人でもある山岸は、どちらかというと「攻め系」の自分に対して、着実に業務を遂行する「守り系」のタイプ。自分と補完関係を築けると思いました。もう1人は最高技術責任者に就任した藤本真樹です。藤本は楽天に技術コンサルタントとして来ていた男で、当時は特に親しかったわけではありませんが、その高い技術力は評判になるほどでした。僕は「ぜひ当社に加わってほしい」と話を持ちかけました。

 2人には組織の中心メンバーとして、その後に続く社員を束ねる力にも期待していました。例えば藤本はトップクラスのエンジニアとして、ほかのエンジニアの気持ちを理解する感覚を持っています。これは生粋のエンジニアではない僕には真似(まね)できないことです。設立から約1年半で当社は総勢約30人に増えていますが、主な採用ルートは山岸や藤本などの口コミによるもの。まさに友人の紹介でユーザーを増やす“SNS的”な採用でした(笑)。


10年後も「最新」の会社を作る

 会社の目指す方向性は「ユーザー中心の新しいメディアを作ること」ではあるものの、そのために何を作ればいいのか、正直な話まったく予想が付きません。かつてメールマガジンなどがブームになり、その後当たり前のサービスになったように、現在注目を集めるSNSやブログ、Web2.0なども10年後は「だから何?」という程度になっているはず。

 だから当社はSNSの会社であることよりも、新たなサービスを創造する会社であることが大切だと考えています。当社はサービス開発をエンジニア主体でサービス開発し行い、スクラップ・アンド・ビルドを高速で行えるできる体制を構築。発見したタネを大きく育て、成長してゆくイメージを思い描いています。

 このイメージは「連続的成長」と「非連続的成長」という言葉で説明できます。前者はコンサルタントやMBAの経営理論に近く、目に見えるゴールに向かって物事を論理的・効率的に進めてゆく直線的成長パターン。後者は過去とは関連性のない革命的な成長であり、具体的にはアップルコンピュータが「マックOS」とあまり関連性のない「iPod」を生み出したような例があります。

 実際には「非連続成長」の中から新たなものが生まれ、「連続的成長」で大きくしているのですが、アップルやプレイステーションを作ったソニー(ソニー・コンピュータエンタテインメント)のような、非連続を生む企業文化が重要なのです。当社では非連続のネタになる新しい知識が吸収する環境作りにも取り組んでいます。

 開発部門では著名なエンジニアを講師に招いた勉強会を開催。しかも社外の人も参加できる公開勉強会としています。参加者は100人に達しますが、その95%は社外の人(笑)。この活動で得たSNS的なつながりも、非連続を生む原動力になるはずです。

キャリアの「非連続」を起こせ


 キャリアアップも「連続」と「非連続」の繰り返しかもしれません。僕は文系出身ですがPHPというプログラミング言語が使えます。しかもそれは趣味としてではなく、プロデューサーとして楽天に入社した1年目に仕事を通じて覚えたものです。

 楽天でコミュニティサービスを立ち上げる際、インターネットに詳しい僕が指名され、ゼロからプログラムを覚えて作ることになったのです。プライベートの時間も使ってプログラムを勉強し、自宅の家賃が7万円だったのにも関わらず、月額3万円もする最上級のレンタルサーバーを自費で借り、テスト環境として使っていました。

 この経験は僕にとって革命的な出来事でした。それまで新サービスの企画・プロデュースを手掛けてきましたが、いいアイデアを思い付いても口頭でしかエンジニアに説明できませんでした。いざ検討しようと思っても「田中君の言っていることが理解できない」と言われ、そこで終わってしまうことがあったのです。

 実際にはサービスは使ってみないと分からないものですし、作りながら分かってゆく部分もあります。プログラムを学んでからは、アイデアを何の妨げもなく直接カタチにできるようになりました。高校時代プログラムの習得に挫折した僕にとって、この経験は自分に「できないことはない」という確信をもたらしました。

 現在社長として人事制度や資金調達など、未経験の仕事にチャレンジする上で、どんな仕事でも「勉強しながらやればいい」、「やれば必ずできる」という自信につながっています。経営は実際にやってみなければ分からない仕事ですが、どんな仕事にも対応する自信やスキルは今のうちに身に付けることができるはずです。

経営者とは「面白いことを打ち出せる人」

 社外の人間も参加OKという「公開勉強会」の開催など、田中氏の経営スタイルは何か新しい時代を感じさせる。その田中氏の考える経営者の条件は「もっと面白いことを打ち出せること」。現代経営学の父P.F.ドラッガー氏(故人)からヒントを得ている。「どこかで読んだのですが、彼は当時80歳を過ぎていたにもかかわらず、今日や明日やること、やりたいことがたくさんある様子でした。その年齢であれば“のんびりモード”に入るのが普通でしょう(笑)。その年齢でさらに一歩前進しようとしている姿に感銘を受けました」。常に新しいアイデアや発想を持つ人が、ビジネスを創造しヒトを引き寄せるが、そうした鋭いきゅう覚やセンス、モチベーションを持った人材は少ない。

(取材・文/角田 正隆)

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