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LEADERS INTERVIEW
for Career Management

妥協を許さない、『本物』になれ

株式会社サマンサタバサ
ジャパンリミテッド
代表取締役社長 寺田 和正 氏

1965年広島県生まれ。大学卒業後、商社に入社。その後、海外ブランドの輸入商社を設立。94年バッグなどのSPA(製造小売り)サマンサタバサジャパンリミテッド設立。設立時から世界ブランドを志向し、ヒルトン姉妹やヴィクトリア・ベッカムといった有名セレブをモデルやデザイナーとして起用するなどして急成長。2005年12月東証マザーズ上場。2006年2月期には店頭小売ベースで146億円売り上げ、2006年の秋冬シーズンからニューヨークのマジソン街に路面店をオープン。今後はヨーロッパやアジアに展開する計画。

No.1サラリーマンを目指す

 幼い頃から社長になりたいと思っていた僕は、学生時代、カナダの革ジャケットをイージーオーダーで日本に輸入するビジネスを始めました。そのビジネスで大きな利益を稼ぎ、そのまま続けることもできましたが、きちんとしたビジネスを学ぶため商社に入社し、工作機械を欧州に輸出する仕事に携わりました。少人数の中堅商社でしたから、実力次第でチャンスが与えられる環境でした。

 新人時代の話ですが、取引先の工作機械メーカーが工場研修に参加させてくれました。最終日、メーカーの方が焼肉をごちそうしてくれることになり同席すると、「商社なんてたくさんあるから、君たちがちゃんと売らないなら、商社は君たちじゃなくてもいい」といったことを言うんです。相手にすればこれも新人研修の一環のつもりでしょうが、プライドを持って商社に入社した僕は許せませんでした。「今、何とおっしゃったんですか? 帰ります」と言って席を立ち、僕は途中で帰ってしまいました。

 翌日、「自分をバカにするならまだしも、会社をバカにするのが許せなかった」と課長に報告すると、課長は「寺田、お前はすごいな」と喜んでくれ、そのメーカーの方も「面白い奴が入ってきた」と好意的に受け止めてくれました。少し無理なお願いもできる関係になり、おかげで期待通りの実績を残せました。正直な話、東京に帰る新幹線の車中では、「明日、課長に何て話そう」と心配していましたが(笑)。

 当初から3年ぐらいて独立するつもりだったものの、サラリーマンという枠組みの中で一番を目指し、自分のモチベーションを高めていました。ですから社内でも「将来、独立するから」と言ってちゃんと仕事をしない人や、「しょせん中堅商社だから」と会社を軽く見る人が許せなかった。会社や上司の悪口を言う人と、「何を言っているんだ」とケンカになることもありました。

 仕事では相手に好かれることも大切ですが、相手に認めてもらうことが先だと思う。相手の話に合わせるのは楽ですし、焼肉の一件も「ハイハイ」と言って済ませることもできた。しかし、それで自分を見失っていたら、相手に認められなかったはずです。


喜び、やりがい生む「ブランドビジネス」

 サマンサタバサという会社を興したのは、「ブランドビジネスをやろう」と思ったからです。ブランドというのは人に喜びを与え、従業員のやりがいやプライドを引き出し、結果的によい報酬、信頼を生むものだと考えています。

 設立当初は海外ブランドを販売していましたが、ブランドが認知されたところで大手に持って行かれたり、「ひどい」と思ったことも何度もあります。独自ブランドに切り替えてからも、初めから売れたわけではありません。それでも「いつかは売れる」という信念のようなものがありましたし、10年前から「世界ブランドにしよう」といい続けています。この仕事を通じて感じたことは――価格でも、商品コンセプトでも――うまくいくときは妥協していないし、妥協するとうまくいかないということです。

 ブランドは国籍によって分けられないものだと考えています。「米国ブランドだ」といわれている商品だって、ヨーロッパのデザイナーを起用し、中国で製造しているものもあるでしょう。それより、そのブランドが「どこに向かっているか」という意志によって分けられるものだと考えています。

 アジアで日本のファッションがはやっているからと釣られては、その意志が不明瞭になってしまう。今秋、海外第1号店をニューヨーク・マジソン街に出店する予定ですが、ニューヨークを選んだのはそうした考えからです。


社員1人ひとりの幸せを考える

 この会社のトップとして常に自分に言い聞かせているのは、社員1人ひとりが幸せになれるよう会社を運営していくことです。社員には「店長になりたい」という人がいれば、「ナンバー2のままでいたい」という人もいます。ですからまず「どうしたら幸せになれるか」、社員1人ひとりと共有する必要があります。当社には店舗で働いている社員も多いのですが、毎月「店長会」を開催し、全国の店長が集め、そこで僕が現在取り組んでいることや将来のビジョンを語り合っています。また、社内イベントを多く開催しており、店舗のナンバー2やスタッフと食事をするなど、僕から「将来どうなりたいのか」と話しかけ、逆に「こうなりたい」と言ってもらえる場を意識的に作るようにしています。

 当社社員の大半が女性ですが、女性は「こうなりたい」ことに対しストレートだと思います。店長が目標だと言う人は、本気でそういう意識で仕事に取り組んでいます。一方、「こうなりたい」と言う男性が少ないような気がします。男性は何か言うと責任になってしまうから、なかなかそういうことを言わないんです。逆に「こうなりたい」と言う男性に限って中身がなかったり、どちらにしても本物の男というのは、なかなかいないものですね。

弱い心に打ち勝つ

 その「本物の男」になる方法があるとすれば、まず、妥協しないことだと思います。でもそれだけではピンと来ないでしょうから、まずは「自分の心は弱い」と認めることが第一歩と言いたい。男性はすぐ逃げるし、心が弱い。僕だって怠け者だったり、弱い一面を持っています。しかも男性は言い訳します。何かあると「上司が悪い」、「会社が悪い」といってはヤケ酒をする。でも女性で上司に怒られたからといって、ヤケ酒するなんて聞いたことないでしょう(笑)。女性は上司に怒られると「どうすればいいんだろう」と真剣に悩む。一方、男性は「(上司の)機嫌が悪かったんだろう」と人のせいにする。

 この弱い心を認めることができれば、次はそれを押さえつける強い心が必要になります。「もう疲れた。やりたくない」と思っている場面で、発想を「ここでやらなきゃダメだろう!」と切り替える。弱い心をごまかしていると、それは“必ず”自分の人生に跳ね返ってきます。例えば受験勉強。「もう眠い」といって勉強を怠ると、受験に失敗し「ヤマが外れた」と言い訳しますが、それは勉強しなかっただけなのです(笑)。

 でも男の便利なところは、これに気づいた瞬間から強くなれること。問題はいつ気づくかです。もし50歳で気づいても体が動かないことになりかねませんが、もっと早く気づけば成長のドライブに弾みが付くでしょう。

難しいことを「強み」に転化する
 ファッション業界は離職率が高く、業界の構造問題になっている。社員が店舗ごとに配置されるなど、コミュニケーションが取りにくく、なかなか会社としての一体感を持ちにくいためだ。しかし寺田氏は「その難しいことをやってのければ勝てる」と考えた。社員1人ひとりの名前を覚え、誕生日にはメッセージを贈るなど、社員とのコミュニケーションに心血を注ぐ。バッグなどの「商品力」の高さだけではなく、「人材力」とういう新たな源泉を見出したところに、寺田氏の経営者としての着眼点が光る。
※プロフィール横の本人写真の後(社長室)に見えるのは社員から届いた手紙やプレゼント

(取材・文/角田 正隆)

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