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LEADERS INTERVIEW
「仲間に対する誠意を大切にする リーダーであってほしい」
A.T.カーニー株式会社 ヴァイス プレジデント 坂手 康志氏
<<リーダー・プロフィル>> ▲▲1964年生まれ。87年慶応義塾大学経済学部卒業。大手外資系コンサルティングファーム2社を経て、オンライン教育サービスのアイ・キュー・スリー(IQ3)設立に参画。2000年4月から01年5月まで同社社長を務める。その後、E−ラーニング総合研究所やプロフェット、ブランドリンクスなどの会社を順次立ち上げ。いずれも社長あるいは代表に就任する。05年11月にA.T.カーニーに入社。ヴァイス プレジデントとして経営に参画する一方、コンサルタントとして自動車分野を主に担当している。
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<<企業プロフィル>> ▲A.T.カーニーは1926年に米国シカゴで創立された世界有数の経営コンサルティング会社。創業者アンドリュー・トーマス・カーニーが提唱した「顧客企業の成功が、A.T.カーニーの成功である」という強い信念にもとづき、主要産業分野のグローバル企業や各国の大手企業に対して、戦略からオペレーション、ITにいたる広範囲かつ高品質なコンサルティング・サービスを提供している。日本での事業は1972年からで、金融、通信、ハイテク、自動車、消費財・小売りなど幅広い分野で展開している。 URL http://www.atkearney.co.jp。
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――2000年にコンサルタントから、ベンチャー企業「IQ3」の社長に転進されました。
「IQ3設立のころはネットビジネスの全盛期でした。事業提案書と幹部社員の履歴書だけで36億円ものキャッシュが集まったほどです。バリュエーション(企業価値評価)が百数十億円。そこから会社がスタートしました。上場まで行けるだろうと計画をたてたのですが、今思い返せば、人生で一番面白い時期だったといえるでしょう。何しろ社員数も、設立当初は10人程度。それが、3カ月も経たないうちに100人を超えるなど、ものすごい勢いで増殖し続けていました。突然とんでもない会社ができたと注目を集めたものです」 「社長になって、初めて見えてくるものが数多くありました。経済同友会、ネットベンチャー企業の社長会にも参加しましたし、それなりに優秀な人材も集まってくれていたので、会社経営とはこれほどダイナミックで魅力あるものなのかと実感しましたね」
――順風満帆は続いたのですか。
「『IQ3』は、企業と社会人それぞれをターゲットにしたオンライン教育サービスを手がけていたのですが、BtoCでは思ったように利益をあげることができませんでした。起死回生を図るための広告戦略も外れ、何とか順調に顧客開拓していたBtoBに全面的にシフトせざるを得なくなったのです。しかし、実際にはここから挫折への道をまっしぐらに進むことになっていきます」 「BtoBに切り替えるなか、株主の危機感は高まるばかりでした。もう、毎日が株主対応の連続です。平行して、従業員も大量にリストラせざるを得ませんでした。何とか、BtoBへの特化にたどり着けた時点でリストラのアナウンスと同時に自分は、もう社長を降りることにしたのです。会社は、MBO(マネジメント・バイ・アウト)を繰り返し、別社名ながら現在も事業を継続しており、私自身も応援を続けています」
――『IQ3』での経験を通じて、何を学ばれましたか。
「会社がうまく行っている時は、名だたる企業に協力してもらっていました。しかし、会社の旗色が悪くなってくると途端に雰囲気が一変したものです。極端に居心地が悪くなりました。自分について来る人とついて来ない人に明確に分かれ、有名企業や大学から来た人材ほどすーっと退いてしまう。その一方、もともと名もないバックグランドから来た仲間ほど困難に耐えてくれました。こうした人間を、大切にしていかなくてはいけないということを認識しました。どれだけ仲間に対して誠実になれるかという気配りが重要なのだと」 「『IQ3』の設立前に、コンサルタントとして知的労働に10年間携わりました。しかし、事業経営はコンサルタントの観点とはまったく別で、単にビジネスがどれだけ分かるかだけではないと教えられました。むしろ、大切なのは人の心をいかにつかむかということだと。自分ばかりで仕事をしてはいけません。自分の部下が気持ち良く仕事をしてくれる環境を作っていくことが仕事なのです。コンサルティングファームで学んだことは、世の中ではほんの一部に過ぎませんでした。経営者として、もっと大切にすべきことは他にあったということです」
――坂手さんは、IQ3在籍中の著書「Eラーニング 教育のインタ−ネット革命」(東洋経済新報社)のなかで「人間は、失敗をすることで学ぶプロセスがさらに強化される」と指摘されています。
「人を見る目はすっかり変わりました。今では部下のコンサルタントからは『中小企業の経営者の視点を持っている』と言われます。やはり、その人の能力だけで判断してはいけません。むしろ、心の持ち方、基本動作を大切にした上で、どう適材適所に配置するかが経営の極意だと理解するようになってきたからでしょうか」 「その人が一番がんばれる環境とは何かを真剣に考える。ほめてあげることにエネルギーを使う。人の見方、環境の与え方を配慮できるようになってきたのかもしれません」
――事業家として、そしてコンサルタントとして活躍される坂手さんにとって、A.T.カーニーとはどのようなフィールドですか。
「A.T.カーニーにはMBOというタイミングに合わせて、ヴァイス・プレジデントとして誘われました(2006年1月、EDSより独立)。『新しい会社にぜひとも参画してほしい』と言われたのです。自分で設立した会社がハッピーな時期でしたから、正直言って悩みましたね。コンサルタントは知的な刺激があるので実に楽しい仕事です。しかも、A.T.カーニーにはグローバルなネットワークもあります。結局、自分の会社は廃業しないことを条件にMBO後のA.T.カーニーの会社作りに参加することにしたのです」 「性格的に、自分はどこの場に行っても全力を尽くすタイプだと思っています。周りの人間にひかれれば一緒にやっていくドライブが自然とかかってくるのです。新しいチャレンジがあれば、なおさらがんばってしまいます。この先も予定調和ではなく、チャレンジの機会は水物だというスタンスで生きていきたいですね。私の財産は人間関係、人付き合いです。自分にとってかけがえのない仲間を作れるか、自分の居場所がハッピーかどうかを大切にしていくつもりです」
――次世代のリーダーを目指す読者に向けて、何かメッセージをお願いします。
「人事を尽くして天命を待つ。その日、その日やるべきことをやれば、どこかで天命に出会える。そのチャレンジをつかめば道は自ずと開かれるはずです。そのためには、誠意とベストを尽くさなければいけません。もし、チャレンジした結果、自分が恵まれていると思えるようであれば、色々な場面で様々な人を応援したおかげだと思ってください。人への誠意は自分に必ず戻ってくるものなのです」 「最初に所属する組織ありきという発想はいりません。組織のリーダーになることを目的とする狭い了見も捨てるべきです。むしろ、自分らしさを発揮できるか。素の自分でいられるかを重視した方が良いのではないでしょうか。やりたいことをやらせてもらって、自分がハッピーになるべきだと思います。そうすれば、周囲も自然とハッピーになってきますから、人はついてくるものです。人に支えられていることを決して忘れず、やるべきことをやり続けてください」
(取材・文 袖山 俊夫)
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