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LEADERS INTERVIEW
for Career Management

経営危機が固めた仲間との絆

フィンテック グローバル株式会社
代表取締役社長 
玉井 信光 氏


1963年広島県生まれ。明治大学商学部卒業後、86年オリエント・リース(現オリックス)入社。航空機ファイナンスなどストラクチャードファイナンス関連商品の企画販売に携わる。89年オリックス時代の上司とともに独立。94年12月フィンテック グローバル設立、代表取締役社長就任。2005年6月東証マザーズに上場。

最強の営業部隊で受けた新人教育

 フィンテックグローバルは、さまざまな資産担保証券を使って資金調達するストラクチャードファイナンス(仕組み金融)業務に特化した「ブティック型投資銀行」です。不動産証券化関連の商品で業績を大きく伸ばし、ファイナンスリスクを保険市場に引き受けさせる信用補完ビジネスなど、新たな事業領域を開拓しています。

 私は大学卒業後、オリックスに入社しました。最初に配属されたのが、同社最古の営業部門であり、「オリックスの東大」といわれた大阪の営業一課。名門だけに指導も厳しく、配属間もなく課長に「俺がお前を選んだわけじゃない。入試なしで“東大”に入ったのだから、できが悪かったらすぐ追い出すぞ」と言われたのを覚えています。百戦錬磨の大阪商人に、厳しい精神教育を受け、学生気分はすぐ吹き飛びました。

 結局、私は6カ月ぐらいで、その部署を“落第”しました。しかし、社内最強の営業部隊にいたおかげで、最新の金融手法を学び、業界の横のつながりもできました。その後、同部門の別部署に移り、商社のリース案件などを担当しています。商社の案件は、大型プラントや鉄鋼メーカーの溶鉱炉など、ユーザーの経営に大きなインパクトを与えるものが多く、融資とは異なり製品の「売り手」も介在することから、切った張った激しいの応酬が繰り広げられました。ときには取引先と大ゲンカするなど、厳しいネゴシエーションでずいぶん鍛えられたものです。


20代で「取締役主任」になる

 それからオリックス時代の経験を生かし、上司とともに独立しています。私のポジションは「取締役主任」(笑)。社長を務めていた上司が、資金繰りや人材採用といったマネジメントに苦闘する姿を近くで見るなど、大企業ではできない貴重な経験をさせて頂きました。

 人を採用するときなどに、よくこの話をするのですが、結局は「男一匹」だと思いました。その中でどこに行っても生き残る人は、誰もが欲しがるような人であり、そういう人は、世間にもまれ、常に自分を磨いています。もちろん大企業でも鍛えられますが、カンバンのない小企業で、丸裸になって鍛えられたほうが、成長スピードが早いと思います。実際、私がお付き合いしているお客様は、会社のカンバンではなく「玉井と付き合っている」という人が多い。なかには私の名前は知っていても、社名はよく分からないという人がいるほどです。

 独立して数年経ち、経営をトップの近くで見るうちに、経営者になりたいという気持ちが強くなりました。主任として現場に近い立場にいたことで、「仲間を幸せにできる会社を作ってみたい」と思ったのです。当社では社員を従業員ではなく、仲間と呼んでいるのですが、創業期に集まった仲間は、ストラクチャードファイナンス業界の同志として、10年以上付き合ってきた同業他社の友人たちでした。

 有能な人材が集ったおかげで、立ち上げ当初から順調でした。初年度は、わずか3人で1億円の手数料を稼ぎ、経済的には今よりリッチだったかもしれません(笑)。その後5人ぐらいまで仲間を増やし、2億円もの手数料を稼ぐ年もありました。それを仲間で分け合うという、これ以上ない幸せな時期が続きました。


会社存亡の危機に直面

 ところが株式上場を意識し始めたころ、主力の消費者ローンの証券化が、顧客が次々と吸収合併されたことで、急速に縮小してしまったのです。一気に年商は500万円程度に落ち込み、1億7000万円の赤字が出て、債務超過ギリギリまで追い込まれました。1カ月ほど給与遅配が起こり、全員の給与は20%カット。当時は役員も含め約15人でしたが、3分の1が会社を去りました。

 設立以来、最大の試練でした。しかし、私はストラクチャードファイナンスの仕事で、こうした逆境に耐える強い精神力を身に付けていました。この仕事は、数カ月に渡って多くのハードルを克服し続けなければならず、常に緊張が強いられる厳しい仕事です。わずかな可能性にかけて案件を追いかけていたことを考えれば、「このまま会社がダメになる」など一度も考えませんでした。むしろ、仲間も3分の2が残ってくれたと、ポジティブに考えました。

 その後当社は、プロダクトを全面的に見直し、「短期間で済み、パターン化でき、多くの案件がある」不動産関連のストラクチャードファイナンスを編み出し、急成長しています。試練を乗り越えた仲間の結束は固くなり、これを機に本当の仲間意識が生まれたと思います。社員には会社の株も多く持ってもらいました。



絶対に揺らがない本物の人間力

 会社を上場させてからは、経営者としての責任が一段と重くなったと実感しています。内部統制やコンプライアンスといった課題も、上場していなかったらここまで真剣に考えなかったでしょう。しかし、それらの対策は、連日徹夜で奮闘している仲間に、さらなる重荷を課すことになりかねません。上場する以前よりも、意識的に仲間と直接語り合う時間を多く取り、精神的なつながりを今まで以上に重視しています。

 「リーダーの条件」などと構えて考えたことはありませんが、リーダーには次の2つの要素が欠かせないと考えています。1つは「自分の考えを明確に伝えること」です。社員から何か質問をされたときなどに、具体的な指示を与えるのはもちろん、同時になぜそうしたプロセスになるか、自分の考え方も伝えなくてはなりません。日ごろから自分の考えを明確にし、それがブレないように注意すべきです。

 もう1つは、「人が自然と集まる環境を作ること」です。自分がリーダーになったとき、何人が自分の人生をかけて、あなたを手伝ってくれますか? そういう人物になるには、自分を磨き続けるしかないんです。誰もが「水晶玉」のようなプライドを持っています。それが周囲から叩かれ、鍛えられるうち、次第に水晶玉が削られ、最後は「パチンコ玉」ぐらいになってしまう。その「パチンコ玉」が、絶対に削り取られない本当の人間力なのです。それを一度でも見ることができれば、あなたは一段と強くなれるはずです。


転職理由は「苦労したいから」

 自然界の生物が、厳しい環境に適応して進化するように、ビジネスパーソンも厳しい環境で鍛えられる。玉井氏は「『若いうちは苦労は買ってでもしろ』。昔の人はうまく言ったものです。確かに順風に乗って瞬く間に成功する人もいますが、それは極めて珍しいケース。普通は苦労を重ねてはじめて、成功のチャンスがつかめるのです」という。転職理由は人によってさまざまだが、中には「苦労したいから」という転職理由があっても、歓迎されるのではないだろうか。

(取材・文/角田 正隆)

日経BizCEOは、日経Bizキャリアと世界最大の公式MBA組織日本支部を兼務するグローバルタスクフォース(GTF)の共同サイトです。

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