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LEADERS INTERVIEW
for Career Management

「2度の転機」が器を育てた

株式会社サキコーポレーション
代表取締役社長 
秋山 咲恵 氏


1962年奈良県生まれ。87年京都大学法学部卒業後、アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)入社。94年サキコーポレーション設立、代表取締役社長就任。2003年より首相の諮問機関「政府税制調査会」の委員を務める。05年東京商工会議所「第3回勇気ある経営大賞」受賞。06年日経ウーマン「ウーマンオブザイヤー2006」にてリーダー部門2位、総合部門3位に選ばれた。

一任の重責、限界を超える

 コンサルティングという言葉が認知され始めた1987年、私はアンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)に入社しました。大阪事務所に配属してもらったのは、婚約者が大阪に住んでいたためです。ところが入社して半年ぐらい経つと仕事にのめり込んでしまい、「東京に行けばもっと大きなチャンスがある」という思いから、東京のプロジェクトへの参加を志願。結婚したばかりの夫を大阪に残し、私は東京に「単身赴任」しました。

 このことを面白いと思ってくれたのでしょうか。入社1年目の終わりぐらいに、いきなり上流工程のプロジェクトに入れてもらいました。小規模なプロジェクトでしたが、その成果次第で次の大型プロジェクトの受注が決まるという重要案件。しかもそのプロジェクトで、提案の一部をすべて任されたのです。

 早速、資料を山のように集め、頭から読み始めました。ところが読めば読むほど頭が混乱し、なかなか出口が見えてきません。上司が毎日のように私の机近くまで来て、「進ちょくはどう?」と聞いてくるたびに、胃がキリキリと痛んだのを覚えています。

 その間、いつも仕事に追われているような状態で、毎日重い資料を持ち帰らないと不安で仕方がなかったほどです。そんな日々が1カ月ぐらい続いたある日、これまで何度も目を通していた資料を改めて読むと、「ニュートンのりんご」のように「あっ!」とひらめきました。そのアイデアを上司に報告すると「やればできるじゃない」とひと言。新人ながらも厳しいプレッシャーから逃げず、自分の限界を超える経験をしたことで、以来、何事にも自信を持って立ち向かえるようになりました。


大手のOEMではなく自社ブランドで

 その数年後、私は大手メーカーの研究者だった夫と2人で、サキコーポレーションを設立しました。今でこそプリント基盤検査装置メーカーとして、世界第2位のシェアを握っていますが、創業当初はメーカーであることすら未定でした。社長に就任した私自身、経営者としての覚悟も、ビジョンもなかったというのが正直なところです。

 最初の転機は創業3年目に訪れました。ある大手メーカー向けにプロトタイプを製作すると、それが高く評価され、当社が開発を担当し、大手メーカーのブランドで製品化するというオファーがありました。周囲は「よかったじゃない」と祝福してくれたものの、私はどこかで疑問を感じていました。そもそも私たちの起業は、あまりにも遠い大企業エンジニアとエンドユーザーとの距離を、ダイレクトに結び付けようという試みが出発点。この話に乗ってしまったら何も変わらないのではないか―――。このとき私たちは、自分たちで製品を作り、ユーザーに売るメーカーであることを強く意識したのです。

 次に訪れた転機は、社員を10人ぐらいに増やし、装置がそこそこ売れてきたときのこと。少人数で和気あいあいとした、かなり居心地のいい組織でしたが、これでは徐々に縮小してゆくのは明らかでした。「このままでは会社がダメになる」と危機感を募らせた私は、一転、やり手の営業や優秀なエンジニアを次々と採用。すると既存の社員たちとの摩擦が生じ、リーダーシップが問われる局面に立たされました。会社を辞めてしまう社員もいて、私の人格が否定されたような辛い気持ちになったのもこの時期。いつも孤独で精神的に落ち込み、社長を辞めようと思ったときもあります。しかし、私にとって起業とは人生の選択です。あきらめるわけにはいきませんでした。

 結局、社長である私自身が変わるしかなかったんです。うまくいかないといって、人を批判しても何も始まりません。私は社長としての振る舞いや接し方を改め、新しいビジョンや目標を打ち立て、本気で会社を変えようとしているというメッセージを社員に発信し続けました。すると1人また1人と私を支持してくれる人が増え、再び会社を前進させることに成功したのです。

“匂い”のある会社

 私が考える経営者の条件は次の2つです。まず経営者は大局観に基づくビジョンを持たねばならないと考えています。変化の激しい現代だからこそ、さまざまな状況を考慮した「大局観」の有無が重要になっています。次に、ビジョンの実現のために、自分に不足している要素を補い、一緒にやろうといってくれるチームを作る必要があります。

 当社のように社員が急増しているこの時期、社員に経営理念を伝えたり、理念を具現化することが組織安定の重要な鍵を握っています。これに関しては、しつこいぐらいがちょうどいいと考えています。思った以上に経営という仕事は、泥臭い作業の積み重ねなのですが、これが他社がまねできない競争優位の源泉なのです。理念がうまく徹底されてくると、会社の“匂(にお)い”といったものが、製品や人などあらゆるところに感じられるようになります。その“匂い”がいわゆる「ブランド」ではないでしょうか。


人間としての「スケール感」を高める

 1つの部門であれ会社であれ、組織はリーダーの器以上には大きくなれません。若手ビジネスパーソンが今やっておくべきなのは、人間としての「スケール感」を高めること。あらゆる物事に興味を持ち、チャンスを広げましょう。20代で考えられることなんて、実は大したこともないんです。むしろ自分の周囲にいるスケールの大きい人に、胸を借りるつもりで仕事に没頭してください。こうした一生懸命さが、30代以降の器を大きくします。「何をやるか」より「どれだけやるか」が大切なのです。

社長は「メッセージ発信業」

 会社が節目を迎えたとき、秋山社長は人材の採用や増資、新たなビジョン・目標の設定など、「社長の決断」を通じて、全社員にメッセージを発信してきた。
 会社設立10年目を迎えた2004年2月。サキコーポレーションは、製造業が集積する川崎から、東京の品川駅前地区の最新オフィスビルへの移転を決めた。坪単価の高い都心の一等地に工場を併設し、フリーアドレス採用の最新オフィススペースをデザイン。製造業の多くが海外に工場を移転させているが、その逆を行く秋山社長の決断には「付加価値の高い仕事をしよう」という、社員への強烈なメッセージが込められていた。
 2006年2月期には売上高46億円、経常利益15億円を達成。社員は早くも秋山社長のメッセージに答えてくれた。

(取材・文/角田 正隆)

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