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LEADERS INTERVIEW for Career Management
参謀からリーダーへの転換点
ソニー銀行株式会社 代表取締役社長 石井 茂 氏
▲1954年東京都生まれ。78年東京大学経済学部卒業後、山一証券入社。同年山一証券経済研究所に出向。85年エール大学ビジネススクール留学。93年山一証券企画室配属。同年同部長。97年11月山一証券が経営破たん。98年3月同社退職。98年6月ソニー入社。2001年4月ソニー銀行代表取締役社長就任。著書に『決断なき経営 山一はなぜ変われなかったのか』(日本経済新聞社、絶版)がある。
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■資産運用に特化する唯一のインターネット銀行
2001年4月に設立したソニー銀行は、資産運用を考える個人のためのインターネット銀行です。5期目となる2006年3月期に初の黒字化を達成し、「ようやく合格通知をもらった」という感じでしょうか。設立当初、「インターネット銀行は資産運用よりも決済が有利」という声がほとんどでしたが、私は日本人をバカにした意見だと強い憤りを感じていました。今回の黒字化によって改めて数字で、日本人の金融リテラシーの高さを証明することができました。
■会社を辞める覚悟だった
しかしソニー銀行の設立は、ソニー取締役会で一度否決されているのです。普通の会社で提案が経営会議で否決されるというのは、サラリーマンとしてはかなりショッキングな出来事。私が室長を務めていた金融サービス事業準備室は解散し、銀行設立プロジェクトは凍結されてしまいました。
そのときのことを考えてみると、以前、山一証券企画室で参謀を務めていた私は、どこかでいくつかのプランを考え、それをトップに選んでもらう受動的な面があったかもしれません。しかし事業の主体である私が、そんな姿勢でいいのか――。そこで自分の考えを再確認し、この事業を自分がどうしてもやりたいと思っているのがハッキリしました。
翌年、検討が再開されると、私は客観的に「これはいいビジネスなんです」とは言わず、プレゼンテーションの冒頭に「この事業をやりたいという立場で説明させて頂きます」と宣言。自分がやりたいから主張していると、包み隠さず正直にソニー経営陣に伝えました。自分でも分からないのですが、それで承認されたということは、自分の中で何かが変わったのでしょう。これがもしかすると、参謀から経営者への転換点だったのかもしれません。この経験から「至誠、天に通ず」※を座右の銘にしています。※「まごころをもって事にあたれば、いつかは認められる」の意(大辞林より)
今でこそ我々のビジネスモデルは高く評価されていますが、当時の新規参入銀行の中で当社は最もチャレンジングでした。私も決済に日和(ひよ)って「決済をやります」と言えば、通りやすかったと思いますが、「決済はもうからない」というのが私の判断。資産運用で利益を上げてから決済をやるというストーリーは、しつこいほど曲げませんでした。
正直、この提案が通らなかったら、会社を辞めてもいいと思っていました。そのとき自分の中にあったのは、「自分には私心はない」という信念です。もし私心があれば見透かされるし、ここまでの覚悟はできません。自分1人の利益ではなく、ソニーのため、業界全体のためになる、それを価値判断の軸に置くことが大切なのです。
■「捨てる決断」と「情報がない中での決断」
山一証券が経営破たんした後、私はその崩壊過程を描いた『決断なき経営』という著書をまとめ、社内全体にまん延していた主体性のなさ、決断力のなさを指摘しました。特に山一は「捨てる決断」ができなかった。縮小均衡への道をたどる中でも、「法人の山一」として法人業務に特化する、もしくはリテールを強化して生き残る道があったと思います。しかし最後まで「四大証券」という称号が捨てられず、結局、何ひとつとして決断できなかったのです。
もう1つ感じていたのは、経営者は「情報がない中での決断」に迫られることです。経営者にインプットされる情報は必ずしも正確ではなく、意図的ではないにしてもバイアスがかかっています。それでも経営者は決断を下さねばなりません。
ソニー銀行の社長になって、私が最初にした「捨てる決断」は、決済と法人取引を捨てることでした。コンサルタントは、それでは儲からないという意見でしたが、個人のための銀行を設立するという基本方針のもと、やるべきではないと考えました。
日本初の「非対面型」住宅ローンの導入は、まさに「情報がない中での決断」だったといえます。前例はまったくなく、リスクが大きいと指摘されました。実際、住宅ローンを悪用する事件もあったと聞き、あらゆるリスク対策を考えるうちに、夜も眠れない日々が続きました。しかし、やってみなければ分からない部分もありますし、99%以上の善良なお客様にメリットがあるサービスなら、最後に私はお客様を信じてスタートすることにしました。結果としてこの判断は間違っていませんでした。ソニー銀行にとって住宅ローンは、今や主要なサービスの1つになっています。 |
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■自分の頭で考え、流行に流されない
私の考える経営者の条件は2つです。1つはビジョンすること(envision)。組織が将来に向かってゆくうえで、その方向性を決めるのが経営者の重要な役割です。そしてビジョンは必ず自分の頭で考えなくてはなりません。よく企画をやっている人は、他社事例などを参考に、表面的なストーリーを作ってしまいがち。しかし自分で考えたビジョンでなければ、周囲の流行に流されるだけで、自分を見失ってしまうのです。
もう1つはインプリメンテーション(implementation)、つまり物事を実行してゆく力です。インプリなくして物事は前に進みません。例えば新しいビジネスの立ち上げは、優秀な人材だからできるものではなかったりします。むしろ「意志あるところに道あり」。ある程度筋の通った話であれば、その通りになるか否かは、それをやる人の実行力次第なんです。ビジョンは修正できますが、インプリは変更できません。
最後に、リーダーとは常に他人に見られる立場であり、自分の行動を厳に律すべきと言いたい。人は他人に対しては厳しいものです。少しでも疑念を持たれれば、信用はあっという間に失墜します。たとえルールに反してなくても、そもそも疑われること自体、「脇が甘い」と思わざるを得ないのです。
「経営者はラグビーのフルバック」
石井氏によれば、経営者はラグビーのフルバックに似ているという。フルバックとは最後尾を守るポジションであり、サッカーでいうゴールキーパー。つまり抜かれたら一巻の終わり、相手に得点を許してしまう。経営者の責任の重さを的確に表現している。しかし、このフルバックの精神は、経営者だけしか味わえないものではない。あくまで意識の問題であり、「絶対に最後は自分が抑える!」という気持ちがあれば、明日からでも職場のフルバックになれる。
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(取材・文/角田 正隆)
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